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2023.02.10

今年度の優秀賞が決定しました

令和4年度の卒業・修了研究の優秀賞が決定しました。

【プロダクトデザイン学科】
 金子 明日香 (土田研究室)
 窪田 泰一 (金石研究室)
 中山 創意 (増田研究室)

【視覚デザイン学科】
 井口 晴人 (御法川研究室)
 石塚 桜 (ビューラ研究室)
 尾和 優多 (真壁・平原研究室)
 金井 彩月 (徳久研究室)
 川邊 彩海 (金研究室)
 小森 香乃 (池田研究室)
 坂部 奈々美 (山田研究室)
 髙橋 香穂 (吉川研究室)
 伴 菜智 (ビューラ研究室)
 舩木 優菜 (山田研究室)
 三浦 誉人 (山本研究室)

【美術・工芸学科】
 畑 華純 (中村研究室)
 遠藤 里桜 (中村研究室)
 佐川 和暉 (藪内研究室)
 長井 良太 (小林研究室)

【建築・環境デザイン学科】
 林 飛良 (北研究室)
 櫻井 康平 (北研究室)
 佐藤 菜々緒 (平山研究室)
 佐野 菜々緒 (津村研究室)
 澤口 有紀 (津村研究室)
 平川 真太郎 (山下研究室)

【大学院造形研究科 修士課程】
 宇佐美 彰翔 (山下研究室)
 狩野 涼雅 (真壁研究室)
 樋口 玲実那 (鈴木研究室)
 三浦 尚悟 (北研究室)
 渡邉 芽衣 (岡谷研究室)


各学科・研究科の優秀賞の紹介

【プロダクトデザイン学科】

受賞者 研究テーマ 選考理由
金子 明日香 シニアの方に向けたオーディオの提案
kasane -祖父母に贈るヒーリングオーディオ-
環境音を音楽と重ねてBGMにするという発想が良い。対峙して音楽と向き合うという聞き方からは邪道かもしれないが、環境要素としての音楽という観点からはBGMのより発展的な姿かもしれない。様々な造形を検討した上にたどり着いた、温かみのある外形、質感もコンセプトに合っている。
また、内部構造、配線などアドバイスを受けながらも自力で基盤をくみ上げ、機能するものを作り上げた姿勢も高く評価したい。(土田)
窪田 泰一 ファッションとアートの共存サスティナブルファッションの新しい魅せ方
 ーシン エス アートー assemblage DINO
彼の研究テーマでもあるアートとサスティナブルの共存の中で、単なる着飾るというファッションの世界にとどまらず、インパクトと意匠性を兼ね備えた作品に仕上げている。
テーマにもなっている材料に関してはダンボール、古着という捨てられてしまうゴミ化(化石)という言葉をヒントに古代生物の恐竜という大きな模型を作り上げ更に10点以上の衣服を皮膚のように纏わせた巨大なクローゼット化させた作品も、綿密な計画のもとに作り上げた点も高評価につながる(金石)
中山 創意 ミニマリストのための新しい家電の提案 組み合わせる家電
cubomit
本研究は家電製品の大量生産・大量消費への問題意識に端を発し、壊れたパーツを部分々で交換しながら長期間の使用に耐えるサスティナブルな家電製品のあり方のプロポーザルである。
ブロック式玩具のような組み立て・分解構造をそのまま生かした外観デザインと抑制の効いた色使いや質感で非常に完成度の高い作品となった。本体のみならずパッケージまで提案し、製品の世界観を提示しようとしている点も高く評価したい。(増田)


【視覚デザイン学科】

受賞者 研究テーマ 選考理由
井口晴人 特撮ヒーローによる魅力ある昭和の演出
オーシャンマン
令和の現在から見ると、ずいぶんと懐かしさを覚える世界を展開した。人間が着ぐるみを着て動くタイプのヒーロー・怪獣デザインである。そこには井口の設定した1970年代当時ならではのゆるさ・強引さを含む、カッコ良さ・ユニークさがある。
平成に生まれた井口は、令和の現在に窮屈さを感じて、昭和のゆるさを羨ましく思うことがあると言う。彼のデザインには、当時への憧れが詰まっている。昭和への憧れ、特撮ヒーローが見せてくれた夢への執着というのは、井口のごく個人的な想いである。しかしそれを強烈な熱量を持って作品化したことで、他者にとっても目を向けないわけにはいかない作品へと昇華した。 (御法川)
石塚桜 人体表現に拘った 3DCG アニメーションの研究
頭選び
3Dソフトを使用しながらも2Dアニメーションの様な表現にする為に細部まで研究し、1年間ずっと丁寧に作品制作を行いました。
研究のメインは表現の追求でしたが技術を応用した結果、ストーリー設定は更に面白く魅力的になり、現実のマスク社会で乏しくなった「表情の大切さ」を考えさせられました。プロの声優を起用したセリフを含めた高度なオーディオ編集も行われたので、完成度の高い映像作品ができました。(ビューラ)
尾和優多 自分とSNSの関わりをメディアアートとして表現する研究
Hack_action!!
本研究はネット空間と現実空間を繋ぎ、SNS上の人間関係を現実へと接続する試みである。SNS上で自身について話題になると分身とも言えるロボットがくしゃみをするという作品になっている。人間がくしゃみをする仕組みを研究し、それを機械的に再現するロボットを開発した。クシャミをする機械は前例がなく世界初の機構である。
コンセプト、機構設計、ネットから情報を取り出すプログラミング、これらが高いレベルで組み合わさり実現されている。確かな技術と作業量に支えられた優れた作品となっている。(真壁・平原)
金井彩月 子どもの絵に対して大人の理解を得る研究
こともっと
図工の手伝いでの経験からの疑問に始まり、多くのヒアリングで研究の足場を固め、解決の為のアイデアの産みの苦しみの時期を経て試作とテストを繰り返し作業を根気強く進め、アイデアの形を明確にしていくというプロセスには結果だけを見るのでは推し量れない努力と挑戦が隠れている。
またそうしてできた本作品は実際に使ってもらうことで仮説を実証していく検証作業とその結果も高く評価された。是非、成果物だけでなく研究ノートや検証動画も見ていただきたい。(徳久)
川邊 彩海 小豆島オリーブの魅力を広めるショップブランドの提案 
小豆島オリーブ専門店おとなりや
本卒業研究は、瀬戸内海にある小豆島のオリーブのブランディングをテーマとしている。地元の文化と産業に興味を持った彼女は、2022年に数回の現地調査を行いながら着実にデザイン作業を進め、彼女本人の特技である書道をベースとしたカリグラフィーを利用してロゴマーク、商品のラベルのデザインをうまく仕上げている。
今までの日本国内でのオリーブ関連ブランドのイメージではなかなか感じられなかった和風のデザイン戦略が斬新であり、外国産オリーブに比べ、マイナーな存在であった国産オリーブ産業に対して新たな提案ができたと考えられる。(金)
小森 香乃 デペイズマンの手法を用いたグラフィック表現の研究
ENCOUNT
CITY POPでユーモラスなモチーフはどこか懐かしく、哀愁が漂っている。ディテールには作家性がじわりと滲み出てくる。
ステンレスや古紙、サテンといった素材にUV印刷を行い質感を変え複数ある作品に個性を持たせているところがとても興味深い。
無機質なモチーフから来る偶発生を産む試みは、まさに研究テーマの賜物だと思う。答え合わせが行えない小森の作品にグラフィック表現の活路が見えてくる。(池田)
坂部 奈々美 晴れていない日の中に隠れている美しさを常に可能にする研究
No Sunny Day
坂部は、地球の気象とそれによって現れる光景をスタジオという閉鎖空間の中で人工的に再現できるかに取り組んだ。雨の日のスナップと自然に感じられる作品がどれも”つくられた世界”であることに驚くだろう。
映画撮影の歴史における特撮合成技術であるマットペインティング的手法をベースに室内撮影されたそれぞれの作品からは、雨の多彩な表情の演出を感じることができる。撮影方法の思考と工夫、根気、緻密、丁寧といった多様な制作研究要素が高く評価された。(山田)
高橋 香穂 銀紙の折り目を用いた質感表現のグラフィック研究 Glassphic 高橋の作品は、グラフィックデザインとして綿密な表現手法の探求と優れた表現力を高く評価された。銀紙を折り目とガラス素材の工芸品にみる質感表現に結び付けた意外性のある視点と立体物を平面的に表現したことで、独自のビジュアルを作り出すことに成功している。
また、最後の定着にこだわりオフセットで印刷したことにより、折り目の細かな細部に至るまで質感が忠実に再現されており、精度の高いビジュアルが完成している。(吉川)
伴 菜智 漫画特有の表現を取り入れたアニメーションの研究
逆行
漫画表現からアニメーションについて2年間弱の追求を行い新規性の高いユニークな作品を完成することができました。非常に分かりやすい線画と白黒に限られたグラフィック的な表現で上下の動きを演出し、現代的なストーリーが語られています。
サイレントですが、漫画世界からの擬音語などの視覚的なオノマトペで何と自然に視聴者の頭の中に音声トラックが生まれています。(ビューラ)
舩木 優菜 有意識と無意識の研究
Sparkle Sleeps
独創性の高いシナリオの制作からはじまり、脚本、キャスティングからロケーション、スタイリング、スケジュールなどの下準備があって映画制作はようやく撮影にこぎつける。そして撮影中も撮影後も多く試行錯誤とやり直しが続く。
演出設計の他に同時発生するさまざまな面倒な作業と工程を処理してゆく原動力は、監督の頭にあるイマジネーションをこの世界に生み出したいという熱意そのものである。”意識”に対する解釈を自身の世界観と共に、丹念に考えられた物語として高い次元で映像化している。(山田)
三浦 誉人 パッケージの人生を描いた絵本の研究
しあわせな人生
彼のパッケージに対する愛情は、純情ではない。パッケージにもさまざまな個性があり、人間のようにストーリーがあると主張している。スーパーというパッケージと消費者の出会いの場で、消費者は自分に一番マッチしたパッケージを購入する。手に取ってもらったパッケージはその出会いに喜ぶのだが、決して思うような結果にならない。悲喜こもごものストーリーが存在し、ハッピーエンドで終わらずにあえてバッドエンドにした構成は秀逸である。
彼独特のタッチで4作品(1冊36P)を全て手書きした。ページでのアングルやトリミングも緻密に考えられていて、高く評価をされた研究である。(山本)



【美術・工芸学科】

受賞者 研究テーマ 選考理由
畑 華純 跡から感じる時間の流れとガラスの表現研究 いつも通りの日常は、人や自然が関わる全知を超えた時の啓示であるかのように、彼女の眼には跡(キセキ)として残る、そんな話を1年前に聞いたのが彼女の研究の始まりだったと思います。
高温で溶かしたガラスを瞬時にカタチとして残す行為は、胸の内を超える表現として存在し、技法と研究の往還を続けたことで、その思いが強く結び着くまでに達したんだと勝手に思ってます。さらに、この研究は今後の展開、発展に期待できるところでもあり高く評価したいし、優秀賞に値するものだと思っています。(中村)
遠藤 里桜 ガラスを通じた自身の青春記憶の表現 『青春』と言う言葉を聞くと、少し切なかったり恥ずかしい気待ちになるのは私だけでしょうか。時をテーマに制作を続けて来た彼女は、かつて経験した中学生時代の記憶にフィルターがかかっている事に気づきます。
本研究はこの『青春』と言うフィルターを紡ぎ、実態のない時の流れと素材との関係をつなぎ合わせ、彼女自身の心象表現として伝える事に結実しています。若さゆえの繊細で脆い時のかたちは、多くの人々に記憶という時間を思い起こさせる表現として高い評価につながったんだと確信している。(中村)
佐川 和暉 木目金技法による表現の研究及び花器の制作 本研究は、木目金地金制作の拡散接合実験を4度経た後、20層の合金によって制作された75×75×46.6㎜の金属の塊から、打ち延べ打ち起こして一枚から制作された作品とその木目金表現の研究成果である。とりわけ木目金にとって真鍮や四分一の合金を組み合わせることは、その接合温度や圧延、打ち延べ等どの工程をとっても難易度が高い。
また、木目金の表現としては、地金の層の差から全体と部分を作り、これまでになかった文様の自由さを感じさせる作品となっており、卒業研究として高く評価された。(藪内)
長井 良太 「変容」という行為から見る問いについて ある日、遊具が「鉄の塊」に見えてしまった
そんな人間の意識や心情が変化する瞬間を長井良太さん独自の視点で捉えた作品である。鉄線でつくられた記憶の中の遊具は、まるで空間にドローイングをしているかのような儚さ、重量を感じさせない、柔らかで優しい表情とリズム感を持っている。
作品はこの時点で完成ではなく、さらに長井さんの言う「変容」という行為のもと完成に向かうが、どのような姿になって私たちにその問いを投げかけてくるのか、その塊になった存在にも注目したい。(小林)


【建築・環境デザイン学科】

受賞者 研究テーマ 選考理由
林 飛良 あなたもなれる、ケンチキューバーに。
-建築をひらくためのゲーム制作-
穴の空いた四角いハコをみんなで積み重ねていくうちに、見たこともないような楽しい家を生み出せる。ここでは、誰もが建築家。林君の制作したゲームは、専門家だけが知る「建築をつくる喜び」を、そっと開いて見せてくれる。そして彼の研究の真価は、巧みなゲームデザインの他にもう一つある。初期案の段階からテストプレイをしてもらうことを通じて、既に約80名もの人と、実際にその喜びを分かち合ってきたことだ。
昨秋、与板町の小学生たちとのワークショップを大成功のうちに終えたとき、彼は皆の前で「今までで、一番幸せな時間でした」と言った。林君と私との付き合いも随分長いものになるが、そんな活き活きとした彼の表情を見たのは初めてのこと。その笑顔のまま走りきった先に、優秀賞という素敵なおまけがついてきた。
おめでとう。卒業研究展ではまた多くの人と遊び、幸せをかみしめてほしい。
(※皆様は、受付横のゲームコーナーへ是非お越しを!) (北)
櫻井 康平 誰が為に秘し隠す
-湧水の里の宗教コミューン-
湧水がこんこんと溢れる美しい里山に、茅葺きを思わせる大屋根群と棚田状の池による、幻想的な風景が広がる。この集落では芸術を愛する人たちが、農作業に精を出しながら慎ましい生活を送っている―。
訪問者のそのような見立ては、既に櫻井君の術中にはまっている。彼は集落のすべての家の最奥に、ほの暗い異物を隠しこんだ。新興宗教の礼拝堂である。そして秘匿の空間は、家を継ぐべき者たちが成人するときにのみ、その重い扉を開く。大はしごを降りた先の地下室に眠る魂の依り代が、君は何思う、と新成人に問いかける。
いわゆる宗教二世問題を扱ったのだが、作品の構想はあの銃撃事件の遙か前から始まっている。そればかりかこの問題は、彼の生涯のテーマなのだ。自らの生、および空間に対する真剣な眼差しそして葛藤が、一本一本の線を生み、大迫力のドローイングとして結実した。
優秀賞おめでとう。ここは君の、人の思念に向き合う建築家としての出発点だ。 (北)
佐藤 菜々緒 福島県伊達市の柿ばせについて そもそも渋柿を何故人々はせっせと栽培をしたのか。
干柿の生産は外皮を剥いて干すなど手間の非常にかかるものであるが、乾燥して脱渋が行われた結果、柿は保存の利く製品として価値が高まる。養蚕が廃れた寒冷の地で、一見厄介な渋柿の栽培に取り組み、更に硫黄の燻蒸で色鮮やかな「あんぽ柿」を市場に届けたのがこの福島県伊達市五十沢地区である。そして地域では養蚕で使われなくなった蚕室を干し場として再生させた。「柿ばせ」である。
日常の風景としてあったこ「柿ばせ」を、この地域に生まれた受賞者は発見した。数千、数万に及ぶ柿が、本来持つ鮮やかなだいだい色のまま、地域全体を飾り立てる風景がどのように成立し、展開したのか、研究では1つ1つの「柿ばせ」を訪れ、観察して、考えたのがこの論文となる。単にきれいな造形という感嘆には終始せず、この風景がどのような意味を持ち、日本でもこの地にしか見いだせないのかを示した点が秀逸である。(平山)
佐野 菜々緒 新潟銭湯アーカイブス これは、保存コースで培った歴史的建造物を保存活用のために調査し価値を検討し、その結果を発信することを実践した研究である。佐野菜々緒は、近代建築のタイル装飾に興味を持ち、内装にタイルが多く使われる新潟県内の銭湯を調査し始めたところ、その多くの存続が危ぶまれていることを知る。そこで、壊され失くなる前に、実測した図面などの記録をアーカイブとして残し、銭湯の経営が継続できるように集客を目的として広報活動を行った。
精力的な取材と所有者をはじめその他大勢の方々に現状とその価値を周知すべくわかりやすくかつ楽しくビジュアルで示したアウトプット(展示・発表とも)は秀逸で、外部のメディアを使ったりZINEの作製・販売も試みたりするなどの活動も旺盛で、その成果は我々に銭湯への訪問を喚起させるものとなっている。
今後も継続的に行っていく姿勢も垣間見え、総合的に独自性が際立った研究である。よって、優秀賞に値する。(津村)
澤口 有紀 北海道を中心とした円形校舎の現状比較
ー北海道と円形校舎の関連性ー
これは、なぜ北海道に円形校舎が多く建てられたのかを考察した研究である。澤口有紀は、地元・北海道室蘭市にある円形校舎の保存活動から円形校舎に興味を持ち、既往研究から建設・残存状況を調べたが、明らかにはなっていなかった地域特性的な幾つかの要因を明らかにした。特に、8校もの北海道の円形校舎を手がけた坂本鹿名夫と北海道の関連性として、坂本の親族に北海道に関わりのある人物がいること、坂本の父が日本赤十字社の副社長であり室蘭市の円形病棟が坂本の北海道の円形建築1作目の可能性が高いこと、さらに、道内の円形校舎のある各地域は炭鉄港や漁業の面から関連性や共通性がある地域が多いことも要因の可能性であることを示した。
円形校舎が建てられた地域の関連性や共通性は、全国的に数が少なくなっている円形校舎を結びつけて、保存活用するために有効な情報になる点も踏まえ、総合的に完成度の高い研究である。よって、優秀賞に値する。(津村)
平川 真太郎 「ツバキ里海イニシアティブ」 
港町、佐賀県「呼子」にて、海と椿とインバウンドにより、人と街に艶めきをもう一度
「目を疑うような美しいCG画」、これが平川真太郎のクライマックスだと言ってよい。高校まで、ピッチャー×4番バッターだった。なぜこれほどの「美的センス」を持ち得たのだろうか。
 最多票を獲得し、制作でのトップになったこの卒業設計に、しかし、私は「残念」を感じている。未だ、誰もやったことのない偉業を、つまり、2人分いや3人分の卒研を、平川はできたはずだからである。

 研究対象地(呼子港)には、4つのフェーズがある。
 1 「向こう岸」には、先祖を祀った樹状柱が並ぶツバキ事業の「先端建築デザイン」
 2 「向こう岸の山」には、いいスケールのツバキ農園の「ランドスケープデザイン」
 3 「こちら岸」には、港町文化を継承し地域復興の証となる「まちづくりデザイン」
 4 「里海」には、ほどよく両岸に挟まれ、ベニスのようになる「海上交通デザイン」

 「1〜4」のどれひとつとっても、ガッツリとした卒研になる。この学内展に並ぶ「分野の違う作品群」を、ひとつに合体させるポテンシャルを、この「呼子港」は持っている。そしてなによりも、設計能力が高い「平川」は、たったひとりで、その偉業ができたはずなのだ。
 まずは、「1」からだろう。夏の段階で、その基本設計は終了した。いい調子だ。10月からは模型製作だ。しかし…。待てど暮らせど、模型が完成しない。冬が来て、Xマスが過ぎて、年を跨いでも。何ヶ月を費やしたのだろうか。結局、模型の大作に、「2〜4」は喰われてしまった。

 私には、遠くに見える。
 
 平川真太郎の「目を疑うような美しいCG画」で表現された、 
  
 あの頃のように男衆女衆でにぎわう「町」が。
  ツバキに隠れる散策路やフォリーの「山」が。
   漁船の航跡波が朝陽を受けきらめく「海」が。
(山下)



【大学院造形研究科 修士課程】

受賞者 研究テーマ 選考理由
宇佐美 彰翔 CLT建築の造形研究
Cross Laminated Timberによる最先端木造建築の可能性
 2019年10月、ノルウェーに在住の教え子(成田愛:男性)が、奥さん(ネヴェナさんも建築家)と連れて長岡に遊びに来たので、円形講義室でレクチャーをしてもらった。彼女は、ノルウェーでのCLT集合住宅プロジェクトを説明した。これが、本研究の「はじまり」である。すばらしい出会いに、人生は開いてゆくものだ。
 2人の構造家に、審査をお願いした。どの分野でそうだと思うが、私は、実績・業績が、なによりも重要であると考えている。実務を依頼しても、期待を裏切る研究者たちに、多く遭遇してきた。おふたりは、第一線の構造設計者であり、優れたCLT建築の設計を実際にされている。厳しい目を期待し、覚悟した。

 与那嶺仁志氏(ARUP、長岡造形大学准教授)の審査評価書より
「今後のCLT建築の有用性と可能性を示し、鉄筋コンクリート造や鉄骨造に加え造形的にもCLT造という新たなオプションを示したことは価値のある研究と評価でき、今後、CLT建築の発展に寄与できる有用な知見を示したものと考える。」

 江尻憲泰氏(江尻建築構造設計事務所、日本女子大学教授)の審査評価書より
「多くの人が感じ、理解できる造形的なアプローチは、気がつきそうで、気がつかないことであり、CLTの可能性を広げる強力な手段を提供している。(中略)なお、論文中に記載があるが、日本人の気質に負けず、是非、本研究の造形手法を応用したCLT建築を実現して欲しいと思う。」

 1月23日、ZOOMで、宇佐美のパワポを見てもらった。直後、与那嶺氏からLINEをいただいた。「お世辞抜きでいい論文だと思いました。」宇佐美は、飛び上がるほどに喜んでいた。
 1月25日の発表会、ZOOMで東京から参加した江尻氏が、コメントをしてくれた。「江尻先生のコメント聞きながら泣きそうになりました。ありがたいです。」一生の励みになるだろう。
(山下)

*与那嶺氏による、本論のチェックバックが、あまりにプロフェッショナルだったので、私のお願いで、ここに展示させていただいた。この場をお借りして感謝いたします。
狩野 涼雅 立体造形への機械式時計機構の応用 本研究では時計機構の時を刻む仕組みの脱進機(エスケープメント)を作品の核として注目しインスタレーションとして仕上げている。
時計は時刻を知らせる装置としての歴史がある。この歴史の中では正しい時刻を表示するという機能追求で日時計、振り子時計、そして電気式のクオーツ時計と進歩してきている。現在一般に高精度の時計の心臓部として使われているクオーツ(水晶)の振動による制御がある。これに対して旧式の機械時計は精度ではどうしても劣る。しかし工芸的側面のみならず機械式時計は魅力を持ち、一定のユーザーを持っている。その事実を踏まえ時計機構の魅力を捉え作品の一部として実現することに成功しているのが本作品である。
本作品は機械式腕時計で広く使われるクラブツース脱進機を3Dプリンタの部品で作り、その機構が生み出す音と動きを見せている。装置をシャフト上部に配置し、動力を床に配置した装置から提供することにより動作する。これにより脱進機部分はそれ自身の揺れにより風に揺れるススキのような動きを見せている。この装置を30個用意しインスタレーション空間に配置、音とその動きを鑑賞することが出来る。鑑賞者は時の森や草原に入ったかのような体験を得ることができる。
本研究では3Dプリンタの出力素材の特性と出力精度を考え設計を行い、稼働する設計をおこなっている。これを組み立て実際に稼働する脱進機としている点も評価される点である。
今後、金属部品を使い耐久性のある構造への発展が考えられる。しかし、現時点で精度、強度で制限のある樹脂部品を使い稼働に要求される加工精度と実際の精度の調整を行い動作するモデルを作り上げたことは評価されるポイントである。
以上、作品のコンセプト、企画、設計、そして実際の組み立てと十分に検討された段階を踏んで制作されており評価したい。 (真壁)
樋口 玲実那 偶然を残した美しさ
-にじみ染めによる表現技法の可能性-
本研究は「にじみ」と言う染色技法に於いて、失敗として避けられてきた効果を新たな表現技法として確立したものである。 3種類の異なる手法を用いて3作品を制作し研究成果として発表した。「にじみ」は偶然に広がる現象であるが、実験を重ねることにより、その広がり具合を自在にコントロール出来るようになり、今までにない染色技法として確立していることが評価に値する。「にじみ」を作る3種類の手法の特徴を活かしたデザインを施し、見応えのある長尺のテキスタイル作品として展示を行った。作品1点1点がテキスタイルプロダクトの基本であるリピートデザインとして高い次元で完成されていること、本研究で確立した技法は、他者も真似したくなるような魅力のあるもので、今後の技法の広がりにも期待できる。そのように多くの可能性を持った研究成果である事を評価したい。(齋藤)
三浦 尚悟 豪雪山間地におけるシークエンス景観の多層的分析
―新潟県長岡市山古志地域を対象として―
本研究は山古志地域をケーススタディーとして「シークエンス景観」という概念を、景観評価の一の手法として導入する可能性を示唆することに成功している。
具体的にはシークエンス景観というものを物理・心理の両面から徹底的に記述した点と、今後の景観デザインの実践に資する、質・量ともに十分な分析を生み出した点が、この研究の大きな価値だと考えられる。そのため、建築分野のみならず、土木景親デザインの分野でも高く評価されるべき研究であると考えられる。
夏と冬との比較にフォーカスした点も秀逸で、 長岡の山古志地域ならではの研究であるとも言える。(津村)
渡邉 芽衣 『仮想身体の表現  版画技法を用いた作品制作について』 渡邉は、 ウェプ上の人間関係が強度を増す現在において、アイコンやアバターに代表される仮想身体に載せるアイデンティティ構築の構造や、その拡張する身体感覚を読み解き、 非物質的にもかかわらず認知される「ほんもの」の身体について言及する。
そして、その所有者が仮想身体との間に結ぶ関係性を鑑み、そのデジタル的な生成過程と版画作品制作工程とのつながりについて検証し、そのプロセスを作品として表現した。論としての新規性と、版画の枠を越える視座に、修士研究として大きな価値を認め評価したい。(岡谷)
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