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島の集落における街路空間のオモテウラ分析

宮地夏海
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
建築・インテリアコース
指導教員
北 雄介
卒業年度
2022年度

旅行先にて。
人が賑わうオモテの通りと、少しディープなお店を探しに入ったウラの路地。
道にオモテとウラがあるならば、あなたはどのような風景を思い浮かべますか?

島の集落における街路空間のオモテウラ分析

研究内容は論文をお読みください。ここでは実地調査の経緯を日記形式で綴りますのでお時間がありましたら、ぜひ。

2022年7月20日
 新潟県にある佐渡島へ訪れる。新潟港から佐渡汽船に乗って両津港まで約2時間半。両津港に着いたら、バスを乗り継いで小木港を目指す。2日間お世話になる宿に着いたのは佐渡に着いて約2時間後。宿根木に近い民宿は1人での宿泊は不可能だったため、小木港付近で宿を探し、猫がいるというご褒美空間ということでここに決めた。チェックインまでまだ時間があったので、電動自転車を借りて宿根木まで行こうと決めた。5kmくらい、なんてことない道のりだと思い、自転車を走らせていた。ところが。30分漕いでも40分漕いでも着かない。しかも、大きな荷物を背負って急勾配な山道を自転車で走る女、かなり異様すぎる。地図を確認すると、集落はもう少しだというが、そんな気配はない。不安感と、32℃の気温と、急な体調不良が襲ってきて、自転車を漕ぎながら「あ、私ここで終わるのかも」と思った。いやこんなところで倒れてたまるか、と思い、文字通り死ぬ気で自転車を走らせ、ようやく民家発見。一刻も早く休憩させてくれる場所を探してインターホンを押す。無反応。絶望。頭の中は帰りたいという思いでいっぱいだった。それからしばらくして、また民家を発見。なんとテレビの音が聞こえる。お願い、出てくださいと祈りながらインターホンを押す。すると、一人の男性が出てきてくれた。事情を話し、玄関に座らせてもらう。長岡から来たこと、宿根木に行きたいことを伝えると、案の定道を間違えていることを教えてくれた。どうやら、小木港を出発してすぐの交差点を下るはずが、登ってきたらしい。幸いなことに宿根木に抜ける農道がすぐそばにあり、そこまで案内してもらってからは集落まで一瞬で到着した。自分を責めるやら、男性に感謝するやらで忙しい感情を抱えつつ集落に入った。
 宿根木集落は想像よりもコンパクトで、驚くほど静かだった。人の気配がなく、この場所での生活が想像できなかった。途中、新潟の役所だか学校だかの職員の方に出会い、声をかけられた。多分、地図を持ちながらカメラを持って徘徊していたのが気になったのだろう。そして1時間ほどかけて集落をじっくりと見回り、そろそろいい時間だったので民宿に戻った。民宿を営む斎藤さんは、とても穏やかで、出会った瞬間にお姉さんのような、母親のような安心感があった。そして個人的ハイライト、猫様とご対面。まるは人懐っこく、何度も頭突きをしてきた。ハナコは大人しく、でも撫でさせてくれるとってもいい子だった。

▲まる

▲ハナコ

幸せな空間に浸りながらも、ここで暮らす人とお話しできるのは貴重な機会だと思い、佐渡での暮らしをたくさん聞かせてもらった。実家は関東で、大学は東京で、いろいろな出来事があって、佐渡で暮らしてみようとなったこと。その話を聞いて、3年後期の演習課題を思い出した。(ここでは割愛)斎藤さんは私の研究内容にも興味を持ってくれて、気付けば何時間もお話ししていた。

2022年7月21日
 佐渡島での調査2日目。昨日のことがあって、自転車で行くのはやめた。バスで揺られながら宿根木に着き、本格的に撮影やヒアリング、計測などを行う。まずは全方位カメラで集落内を撮影し、次にミラーレスカメラで気になったものや風景を収めていく。それからお昼時になったので集落入り口にあるよしかわ屋さんで塩ぶた丼をいただいた。

▲よしかわ屋 塩ぶた丼

店内には数組のお客さんがいたので、落ち着いた頃に店員さんに話を伺っても良いかと尋ねた。快く引き受けてくれ、ご夫婦でインタビューを受けてくれた。ご夫婦は集落では暮らしておらず、少し離れた場所で暮らしていて、旦那さんが佐渡の生まれだという。結婚を機に宿根木に引っ越してきたのだそうだ。そこに、一人の男性がお店に入ってきた。なんと偶然にも、集落で生まれた方だという。ありがたいことにお話しさせていただけることになり、1時間ほど集落のこと、これまでの暮らし、生活の様子などの詳しい話を聞くことができた。3人とたくさん話をさせていただき、お店を出て、次は計測を行う。建物の高さや、道幅、道の長さなど、たくさんのデータを記録していく。満足したところで、観光で訪れている人や、集落で暮らしている方にもヒアリングをし、最後は集落内にある称光寺のお坊さんにも話を伺った。生まれてからの話、ご家族の話、なぜお坊さんの道を進んだのか、などとても濃密で興味深い話を聞くことができた。実は長岡造形大学と繋がりがあり、平山先生の話も色々と教えてくれた。青いつなぎが印象的な平山先生は、”サスペンダーマン”だったそう。閑話休題。そんなこんなで6時間ほど集落に滞在し、隈なく研究材料となるものを集めた。すっかり夕方になり、集落の目の前に広がる海を見ながら帰りのバスに乗った。

▲宿根木 屋根の連なり

 民宿に戻ると、斎藤さんが佐渡の新鮮な魚を使ったお刺身や揚げ物などを用意していて下さった。実は昨日、明日は一緒に夕食を食べようと言ってくれていたので、私も佐渡のお酒の北雪を用意し、二人と二匹でお食事を楽しんだ。宿根木の話をたくさん聞いてくれ、そこから自分のこれからや斎藤さんの夢にまで話題が広がった。実は佐渡を離れようとしていること、そして私の地元には素敵な島があるという話をすると、とても興味を持ってくれた。お互い、これからしたいこと全力で楽しもうねと語り合い、食事を終えた。

▲素敵な夕食

2022年7月22日
 長岡に帰る日。斎藤さんは近くの会社で働いているため、昨晩に「朝は寝てていいよ」と言ってくれたが、民宿を後にするのが名残惜しく、斎藤さんにお別れの挨拶を絶対にしたかったので早起きをして見送ることにした。たった3日の滞在だったが、斎藤さんを含め、とても良い出会いがあったと思った。感謝と、お互いの未来に向けてのお話をしたところで、斎藤さんを見送った。朝食を食べようと思いダイニングに入ると、置き手紙と、斎藤さんの趣味であるつまみ細工のプレゼントが置いてあった。朝、顔を合わせないままのお別れだったとき用に残してくれていたのだが、とても温かい心遣いに少しだけ泣いてしまった。お手紙とプレゼントは大切に頂戴し、そしてそのプレゼントは卒業式の日に必ずつけると決めた。卒業研究という、いち課題のための時間は、人生の中でもとても濃い時間となった。

▲わたしと斎藤さんとまるとハナコ


2022年8月18日
 地元・香川県にある男木島に訪れる。高松港から約40分で行くことができ、中学生の頃から海水浴や瀬戸芸のために何度か訪れていた。馴染みのある男木島だが、調査のためという視点を持つとまた雰囲気が違うというか、観光気分ではいられない。いざ島に上陸すると早速、猫がお出迎え。男木島には猫が多く暮らしていて、島民や観光客に愛されている。しかしながら、世話をする島の方の年齢や人口などを考えると猫を増やすことはできないため、去勢をする必要があり、きちんと対処した猫は耳を少し切っているため、桜の花びらのような形になることから、サクラ猫と呼ばれるそうだ。そんな猫に構いつつも、男木島の街路を調べていく。

▲男木島(引用:https://tamamika.com/ogi-island/)

 男木島は急斜面な土地で、そこに民家が密集している。また、街路も狭く、原付バイクがギリギリ通れるか否か、という道幅だ。集落の規模もそれほど大きくないので徒歩での移動が基本だが、郵便の配達員は原付で配達しているようだった。また、瀬戸内国際芸術祭の会期中であったため、平日だったが観光客が大勢訪れていた。集落の中でも標高が高い場所で一人のばあちゃんがベンチに座っていた。「暑いですね」と声を掛けると、「大変やね、どこから来たん?」と尋ねられた。大学の卒業研究で訪れていることなどを話し、島での暮らしなどの話を聞かせてもらった。島生まれ、島育ちで、急勾配の坂道ももう慣れたと言っていた。そこに一匹の黒猫がやってきて、ばあちゃんに撫でられて気持ちよさそうにしていた。「島の猫は神猫やけん。大事にしよる。」ばあちゃんにお礼を言って別れ、その後2時間ほどじっくりと調査をしながら集落を歩きまわり、港に戻ってきた。港からすぐの場所に海征という屋台のような小さな食事処があるのだが、そこのタコの唐揚げが最高に美味しい。お腹も空いていたので海征に寄り、外の席に腰掛けて食べていると向かい側にじいちゃんが座ってきた。「今日どっから来たん」「高松です」「地元の大学生か?」「地元はこっちで、大学は新潟です」「遠いな。なんしよん。」あー、地元の方言って安心する。なんというか、ズカズカ入ってくる感じが私は心地よい。また、先ほどのばあちゃんと同じくどこから来たのかを尋ねるのはここが観光地だからだろうか。また、どこから来たか分からない人と話すことに慣れている感じもした。宿根木同様、良いチャンスと思い、じいちゃんもとい、トヨじいに話を聞いた。男木島で猫の保護などをしていることや、島の長のような活動をしていることなども話してくれた。帰りの船の時間が近づいたのでトヨじいともお別れして、男木島での調査を終えた。

▲ばあちゃんに撫でられる黒猫

2022年8月28日
 岡山県にある犬島を訪れる。宿根木や男木島での話を家族にしたら、家族も島に興味を持ったらしく、母親と二人の妹が着いてきた。香川から車で送ってもらい、岡山の宝伝港からあけぼの丸に乗って10分ほどで犬島に到着する。ここもまた、瀬戸芸の開催地であるために観光客が多かった。船を降りてすぐ、犬島精練所美術館に入るためのチケットセンターがあり、行列ができていた。

▲奥には犬島精練所美術館が見える

しかし、今回はそれが目的ではないため、家族を引き連れて島のあちこちを歩き回る。まずは島の南部にある海水浴場を目指して歩いてみる。犬島の街路は思ったより多くなく、一本道が長く続いているような単純な街路で構成されていた。そこから引き返し、島の中心部に帰ってきたら、今度は西部を目指して歩く。地図を見ると島全体が大きいように感じたが、歩いてみるとそうでもない。いくつかの芸術作品を観ながらも、街路の様子を記していく。西部には犬島の向かい側にある無人島、犬ノ島を見張るような、気にしている視線を送る大きな犬がいる。

▲犬島の番犬

犬島の番犬を通り過ぎるとその先には、妹島和世と明るい部屋の二組が手がけた「くらしの植物園」があり、さらにその先を進むと広大な採石場が広がる。中に入ることはできないが柵越しに様子を伺うことはできた。かつてはここで採石されていた時代があり、犬島の人々の生活を支えていた歴史を感じることができて、なんだか不思議だった。

▲くらしの植物園(妹島和世・明るい部屋)

▲犬島の採石場

2022年10月18日
 2度目の男木島。今回は、これまでの予備調査を踏まえて研究対象地としての調査を行うために訪れた。研究の表題にもある、”オモテウラ”という概念を軸として集落を歩きまわり、これまで以上に詳しい記録を重ねた。詳しいデータや全容については論文を見ていただきたい。宿根木では、街路の少なさなどが原因か、オモテとウラをなんとなく分別できていたが、男木島ではウラがベースとなっているがオモテ、オモテっぽい、ウラ、ウラっぽい…というような、オモテとウラが混ざり合った街路が多い気がした。そういう直感を持ちながら街路を調査し、研究を進めていった。研究とは関係ないが、生粋の猫好きなので今回も色んな猫に出会えることを楽しみにしながら歩き回っていた。前回には出会えなかった猫や、港近くのコミュニティセンターには決まってちょっとふくよかな猫な2匹がいること、海水浴場付近には3匹の猫が必ずいることなど、男木島の猫知識も着々と身についていった。

▲よくコミセンにいる猫

▲よく海水浴場付近にいる猫

2022年10月26日
 男木島からフェリーで約20分の場所に位置する女木島を訪れる。ここは名前の通り、男木島と対になっている雌雄島である。実は女木島に訪れるのは2度目で、1度目は中学生の頃に部活動の卒業旅行で訪れた。鬼ヶ島伝説が残る島で、鬼の住処だったらしい洞窟もある。余談だが、犬島は桃太郎のお供をしていた犬への、鬼退治の褒美とも言われている。そんな偶然も知ったところで、女木島の集落も歩き回る。男木島とは対照的に、平坦な土地が広がる。とても歩きやすく、早速調査を開始しようとしたのだが。なんと、コロナ感染対策として集落内には入れないというのだ。調査対象としていた街路が次々と潰されていく。調査できるのか、と不安になったが、幸いにも瀬戸芸の作品に通ずる街路は観光客も入れるということで、検討していた街路のおおよそは調査することができた。また、先ほど島の様相について男木島と対照的であると述べたが、猫も同じであった。男木島と比べて数は少なく、人見知りな猫が多かった。仕方ないので遠くから愛でることにした。女木島の様相といえば、男木島と比べて道幅が広く、舗装されている街路が多くて、民家も新しいような外観が多かった。雌雄島としての違いが多く発見できた。

▲女木島の猫

 研究の実地調査はこれにて終了となった。7月の佐渡島に始まり、犬島、男木島、女木島と4島を訪れた。1人で知らない土地を探索することは大好きなのだが、その感動や楽しかったこと、起こった出来事を誰かに共有することもまた1人旅の楽しみである。卒業研究の締めくくりに、ここで記すことでご褒美とさせてほしい。そして、少しでも島歩き良いな、と感じていただけたら幸いである。