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小径間伐材を用いたテンセグリティ構造の研究

~小径間伐材の需要を促す仮設建築物の提案~
鑓水栞菜
学科・領域
修士課程 建築・環境デザイン領域
指導教員
佐藤 淳哉
卒業年度
2023年度

はじめに。本研究は、林業への関心から国産材利用の促進を目指し、気候変動対策にも視野を広げ、今後も利用の幅が広がると予想する仮設建築物をターゲットに空間構築のシステムを提案します。

日本は豊かな自然に恵まれ、OECD加盟国内で3位を誇る森林率ですが、木材自給率は50%に至っていません。

森林を育む作業として間伐があり、 保育間伐と利用間伐に分けられます。本研究では保育間伐に焦点を当てました。

保育間伐は、森林と生態系の保全を重視した手法であるため、流通先のない間伐材は山に放置されることが多く 気候変動対策には好ましくない状況です。さらなる間伐材の需要を促し、廃棄される木々の減少を目指します。

加えて、SDGsから気候変動対策への意識に着目した結果、日本人は気候変動対策にネガティブな印象を持つことがわかりました。

木質空間やDIYの流行に反し、消費意識は高くないことから、身近なテントを利用した仮設建築物の提案により、日常的に利用する建材とすることで間伐材の付加価値向上を目指します。

仮設建築物には、テント等、人力で組み立てられるものがあり、それらは、誰もが構築可能な身近な小さい空間の一つと言えます。 催事や災害の多い日本では馴染みがあり、 新型コロナウイルスの世界的流行に対しても活躍し、今後も利用の幅が増えることを予想される。 仮設建築物に間伐材を利用することで、気候変動対策の一つともなり、消費者の間伐材利用向上へと導きます。

間伐材の中でも径の細い小径間伐材を対象にします。 小径間伐材は径が不揃いなことが多く、まとまった量が用意できない等を理由に建材として利用される機会はごくわずかです。 しかし軽量で扱いやすいことから、仮設建築物の建材に適していると考えます。

構造として、テンセグリティシステムを採用しました。このシステムは 軽量であることから人力での施工を可能にします。また、圧縮材同士が接合されない特徴を持つため、小径間伐材を一定の規格に製材することなく丸太材として使えます。 テンセグリティシステムと小径間伐材の組み合わせはこのような利点があります。

留学していたHochschule Trierにて、スタジアム設計演習に参加し、形状検討を行いました。架構体としてアーチと片持ちでの検討を行い、 テンセグリティユニットで構成されるアーチ型での制作を進めました。

アーチ組み方は既往研究である東京大学ホワイトライノⅡを参考にします。 テンセグリティユニットの間に束を挟み、組むことで、ユニット化のしやすさにもつながります。

アーチには2つの手法があります。 ①はユニットの上下が中心にむくことから滑らかなアーチを描くため、力がスムーズに流れますが、②は同ユニットの繋がりによる凹凸で力の流れが途切れやすい形状です。

しかし、ユニットの形が一定のため、ユニットの数に応じてアーチの規模を変えることが可能です。したがって本研究では可変性のある②で制作を進めることを決定しました。

はじめに、実際の挙動及び施工性を確認するため、原寸の1/5のサイズを作成しました。 Rhinocerosで3Dモデルを作成し、GSAにて構造解析を行い、自重のみでの挙動を把握しました。 この基本形状は凹凸により力の流れが切断されやすく変位量が大きいため、ユニット間隔および束の長さ・間隔を調整し安定を目指します。

解析・検討を重ね、 アーチの基本形状を決定しました。 人力での施工を考慮し、この形状から3ヒンジアーチに向け、頂部の変更を加えます。

3ヒンジアーチは頂点を押し上げるため、アーチの制作をより簡単にします。 また、アーチを2つに分けることもでき、半アーチを1つのユニットとしても考えることができます。

アーチの模索開始から全61回の解析・検討により、ユニット化しやすく安定性のあるアーチが完成しました。

完成したアーチの原寸形状解析では、自重のみで最大変位量が0.7mmにまで減少していました。多少のねじれや沈み込みはあるものの許容できるものとして、空間を構築する手法を検討します。

アーチを利用してできる空間には平行配列型とドーム型があります。 半アーチを1 つのユニットとして捉え、3本寄せ合い、ドームにします。 本研究では空間の作りやすさ及び架構の美しさを考慮し、ドームでの提案を行います。

屋根には軽量で自由度の高い膜を利用します。

検討の末、架構体で膜を吊るように膜をかけます。

膜を使うことで、様々なデザインの屋根を取り付けることが可能です。

本研究では膜を吊るデザインに決定し、一つのプロトタイプが完成しました。 テンセグリティ構造により、間伐材や膜が宙に浮いているように見えることから、Airlog(エアロ)と名付けます。

ドームの具体的な制作に向け、構造計算を行います。 はじめに荷重ケースと解析結果のうちの変位量を示します。

Case1、膜屋根も考慮した長期荷重では中央が150mm沈みます。

基準風速10m/s 時の風における検討結果です。 Case2、膜面にかかる風により、水平変位量は125mm

Case3、反対からの風により、架構体の水平変位量はに200mmでした。

次に部材断面の確認を行いました。 部材に入る応力は、先ほどの解析ケースの最大応力を用いています。 圧縮材の算定には4種類の木径で検討を行いました。最大応力が8152Nであることから最小径Φ60のスギを採用した。

引張材の算定には、構造用ストランドワイヤーロープ最小値の6mmで計算を行いました。最大応力が5554Nであることから、6㎜を採用した。

接合部の検討。

様々な可能性を探り検討を行いましたが、独自に制作する場合、金物に依存し コストもかかることから、汎用性の高いアイボルトを利用した。

頂部の接合部。 3 ヒンジアーチへの対策として、頂部を持ち上げる前に接合部の下側のプレートを配置しアイボルトに3本のボルトを通しておく。

頂部を持ち上げ頂点へ達した後、上のプレートで蓋をしボルト締めすることで3 つを結束させます。

土台には、より重量がありながら自然材料であるCLTパネルを使用しています。株式会社志田材木店の協力により、作成した3Dモデルを元に加工していただきました。

3角形を構成する3つのパーツはほぞ金物で緊結しています。

膜はマグネットで吊ることで、より簡単な取り付け・取り外しが可能になり、加えて、自由な屋根デザインを可能にします。

太陽工業株式会社の協力の元、1/5模型を使いながらデザインの検討・決定を行いました。

1/5模型の完成とともに、原寸制作を始動しました。

制作手順

横になっている半アーチを押し上げ、 3つの足を結束します。

全体的な制作期間は約1か月を要し、当日の組み立てには約20人の生徒に集まってもらい約4時間ほどで完成しました。

小さなユニットは2人いれば10分ほどで作ることができ、半アーチは1つ15分ほどでつくることができます。

作業風景

膜屋根の取付については、慣れると最低2人で5分ほどで設置可能です。

膜材を引張り留めることで屋根の形状を安定させます。

ターンバックルでマグネットを吊ることで、膜設置後の高さ調整を可能にします。

竣工写真

以上の検証により、小径間伐丸太材とテンセグリティ構造を利用したシステムを考案し、 一つのプロトタイプとしての建設を達成することができ、需要を促す提案に繋がりました。 今後の発展として、更に環境に配慮した架構となるよう自然素材ロープの検討を行うことも可能です。 人力のみでの制作・施工では、機械作業よりも精度が落ちることでズレや狂いが生じますがそれらも許容される安定した架構体となりました。

5月末に開催されたほしぞら上映会にて、軽食屋台として活用していただきました。

4日間でエアロはすっかりなじみ、みんなが集まる拠点として愛されました。

Airlogは、人々が集まるシンボルとなり、環境に配慮した、新たな仮設建築物の可能性を広げる提案となりました。 豊富にある資源の中、様々な可能性を探りながら今あるものに新しい価値を生み出すことができたこの研究は自分が大切にしたいと思う建築への思いのひとつです。 本形状のみならず、シェルターやテント、イベントや茶室等、形を変えて展開され、まちのあちこちで活用されながら小径間伐材が認知されていくことを願います。

 

あとがき

 

学部4年時から始めたこの研究は、修士2年にて無事完結させることができました。

気づけば研究は自分を人生を通じてやりたいことに導いてくれていたようです。

テンセグリティ構造はきっかけにしかすぎませんが、空間づくりの楽しさを改めて気づかせてくれました。

ドイツでも日本でも、たくさんの人に興味を持ってもらい、アドバイスをいただきました。

私のやりたいことに一緒に興味を持って協力してくれた皆様、ありがとうございました。

2023年秋に一足先に(?)一足遅く(?)卒業した私は次の目標に向かって頑張っています。

またどこかで、ワクワクした私の話を聞いてください。

 

鑓水栞菜