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多様性箸 shin

現代における箸の在り方の研究
田口結菜
学科・領域
視覚デザイン学科
コース
伝達デザインコース
指導教員
徳久 達彦
卒業年度
2024年度

研究テーマ:現代における箸の在り方の研究

 

箸を多様化する

服装や髪型、文化や思想、多様性のある現代社会で、箸はいまだに2本の棒のまま存在しています。また箸の持ち方にはさまざまな形があり、多くの人が今の箸では使いにくいと感じています。

では箸を多様化してみるのはどうだろう。

個人の箸の持ち方に合わせた扱いやすい形の箸があれば、普段の食事がもっと快適に楽しく、そして美しく食べられるのではないか。

そんな思いからこの「多様性箸shin」ができました。

箸の持ち方を分析し、持ち方に合わせた箸を制作する

実際、世の中にはどのような箸の持ち方が存在するのでしょうか。
箸を使った食事中の人たちの手元を観察したり、インタビューをしたり、調査をして
どのような持ち方、動かし方をしているのかを分析しました。

そして調査してわかった箸の持ち方に合わせ、使いやすい形を追求して新しい箸を制作しました。

 

にぎり箸

握力に頼る持ち方で、物を挟むことは不自由ないが、すくう、混ぜる動きが難しく、見栄えがあまりよくありません。トングのような形を採用し、物を挟むことはもちろん、持ち方を変えることですくう、混ぜる動きを簡単にできるようにしました。

クロス箸

箸がクロスしてしまう持ち方です。物をすくうことは不自由ないが、挟む、混ぜる動きが難しく、見栄えがあまりよくありません。そこで最初からハサミのような形にすることで見栄えの悪さをカバーし、使い馴染みのあるハサミと同じような動かし方をすることで違和感なく食事ができます。

ずらし箸

親指、中指、薬指の三本で上の箸を支える持ち方のため、人差し指が余ります。また薬指の可動域が中指と比べて狭く、力も入りにくいため、大きい食べ物を挟むことが難しい持ち方です。手持ち無沙汰に浮いている人差し指の置き場を作ることで自然と上の箸を握り込む形になり、安定性を増しました。

不動箸

中指を曲げたり逆に伸ばし切ることで固定している持ち方のため、中指を上手く動かせないため箸を大きく開くことができません。人差し指を入れるリングを取り付けることでリングが支えになり、中指が固定されていても人差し指の力で上の箸を動かすことができます。

 

塗装について

塗装は乳白色の漆を採用しました。白漆は大正時代に開発されたもので漆の中では比較的歴史の浅いものです。箸の持ち方の歴史とリンクしていると感じたのでこの白漆を使いました。

 

そもそもなぜ箸を多様化すべきなのか

正しい箸の持ち方の歴史の新しさ
箸の歴史は弥生時代から始まっており、現代まで存在している文化的なものといえますが、箸の「持ち方」の歴史はあまり古くありません。日本で初めて正しい箸の持ち方を定義したのは2008年のことです。それまでは正しい箸の持ち方自体が曖昧なものであると言ってよいのではないかと私は考えています。また、平安、鎌倉時代の食事に関するマナー本にも箸の持ち方についての明記はなく、江戸時代の浮世絵を見ても描かれている人々の箸の持ち方はお世辞にも綺麗とはいえません。これらを踏まえると、箸の持ち方の正しい形を特定の形に決めるよりも、もっと柔軟に考えることが必要なのではないでしょうか。

正しく箸を持てる大人は少数派
事前の調査やインタビューによって正しく箸を持てる日本人の大人は約2〜3割しかいないことが判明しています。過半数の大人は箸を正しく持っていないという事実に驚く人も少なくないでしょう。私の周りにも10人ほど、箸を正しく持てない人がいます。食事中、気がついていないだけでみなさんの周りにもそのような人がいるかもしれません。あるいは、自分自身が当事者であることも十分ありえます。そもそも箸の持ち方に正しい形を定義づけてしまってもよいのだろうかという疑問もここで浮上します。

箸の持ち方の矯正は難しい
箸を正しく持てない人たちにインタビューをした際、箸の矯正について伺いました。全員、子供のころに矯正を試みたが諦めた、あるいは矯正したことがなく、箸の矯正に対してネガティブなイメージを抱いていました。そして「ハードルが高い」「時間がかかりそう」「今は特に矯正の必要性を感じていない」といった後ろ向きな意見をたくさんもらいました。当事者たちが箸の矯正に対して消極的で、彼らにどんなに良い箸の矯正方法を提示しても実行する人は少ないのではないかと考えました。人を変えることは難しいのです。

多様性が重視される現代社会
みなさんも日頃生活していて多様性を感じることは多いと思います。日本国内にも様々な性別や国籍、宗教や思想、身体的特徴を持つ人がいます。様々な個性を重視し、様々な人が扱えるよう意識したデザインのプロダクトも多く存在しています。しかし、箸はどうでしょうか。長さや色、素材にバリエーションはありますが、形は2本の棒しかありません。多様性が叫ばれている社会で、かつ持ち方にも様々な個性があるにも関わらず、箸の形は1種類で良いのでしょうか。

以上4つの観点から、箸を多様化することを決めました。
多様性箸shinで全ての人が普段の食事をもっと快適に楽しくなるように願っています。

 

 

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