よるべない母と子へ
本研究における居場所とは
建築が空間から場へと変化する時とは人々がその空間を利用し活用した時であると思う。そして、その場に対して心地よさを感じた時、初めてその空間は人々にとっての居場所となるのではないだろうか。建築の設計は、誰かの居場所をつくることであると考える。現代社会は個人化社会と言われ、単独世帯の増加や未婚率・離婚率の上昇などライフスタイルの多様化によって個人の選択や価値観の自由が尊重される一方で、自己完結力が求められ個人の責任が拡大するなど個人と社会の関係は希薄化し、社会の中で孤独を感じやすい。このことから、現代の人々が求める本質的な「居場所」には、建築空間などの物理的な「空間的居場所」が存在しているだけでは不十分であり、社会における立ち位置や人間関係を構築する「社会的居場所」を含む必要がある。空間的居場所と社会的居場所は切り離せないものであり、社会的居場所は空間的居場所を場として「コミュニティ」を作り出す。本研究では、空間的居場所の設計を通し、新たな社会的居場所の在り方を提案する。

母子家庭は孤独なのか
皆さんは母子家庭に対してどのような印象を抱いているだろうか。日本の母子家庭数は子供がいる家庭の1/10を占め、近年では母子家庭で生まれ育つことは珍しいことではない。私自身も母子家庭で育った内のひとりである。しかしながら、母子家庭であることに孤独を感じたことはなかった。わたしの幼少期を振り返ってみると、私が孤独を感じなかったのは家庭のほかに様々な“居場所”と呼べる場所が私にはあったからだろう。祖父母や学童、習い事、近所の人…家族ではないけれど私を支えてくれる人がいた。もし、あの時の“居場所”が私になかったら…?私は一家族一形態ではない、それぞれが多数の居場所を持つことによって生まれる新たな家族をよるべない母と子にを贈る。

トコ・ウチ・バ
3640×3640mmの家型を基本モジュールとし、複数組み合わせることによって居住者の各フェーズや用途における必要分の空間を確保。居住者は「トコ」と「ウチ」と「バ」を持つ。トコは家族との居場所となり、バは自分にとって、または他の誰かにとっての複数の居場所のうちの1つとなる。そして、これらの家型を覆うように大屋根が掛かり、トコとバの間に生まれる内側の空間「ウチ」が生まれる。

接続するコミュニティ
本研究での接続するコミュニティとは、個人の興味・関心や心地よさに応じた居場所を自身の適切な距離感で保持する可変的なコミュニティを指す。社会的居場所は各個人とつかず離れずの距離感を保っており、人と人とがつながるシナプスのような役割として存在している。個人が保持する分散化された社会的居場所は当人を始まりとしたツリー状に広がる1つのユニットであり、複数人のユニットが複雑に重なり合うことで、コミュニティはセミラチス状に広がりを見せる。接続するコミュニティにおける社会的居場所は可変的であり、居場所を手放したり移動したり、自身の状況に合わせてツリー状のユニットを容易に変化することができる。したがって、可変的なユニットで構成された接続するコミュニティはアメーバ状に変化し続けるのである。本研究では、大屋根によって大空間を確保し、その内部空間に家型のトコとバを構成することによって、可変的な接続するコミュニティに順応する空間的居場所を実現する。


“お互いの存在を喜び合って生きていくこと”
ここでは、 誰かの生きがいが、また他の誰かの居場所を生み出している。