廃材再生作品「アニミーズ」による文化的処方の実践
-空き家再生空間をポジティブに捉えなおす場づくり-
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
環境計画・保存コース
指導教員
福本 塁
卒業年度
2025年度
アニミーズ誕生秘話
アニミーズが誕生したのは三重県名張市にある「まちの図工室」。 ここは100年続いたクリーニング店を改修し、アートで人と人が繋がる場としてできた、空き家再生空間です。何度かまちの図工室に関わる機会があり、その中で「ASEANから大勢の方が視察に来られるので、空き家であった過去、まちの図工室になった現在を、訪れた人が理解できるキャプションを作ってほしい」という依頼を福本先生から受けました。 普通のキャプションではなく、空き家にあった道具にキャラクター性を持たせれば興味を持ってくれるだろうと思い、制作したのが「アニミーズ」でした。アニミーズは、物に魂が宿るという思想の「アニミズム」から名づけました。 このアニミーズを福本先生に見せると、「これは面白いけども、依頼したキャプションじゃないよね…」と当然ですが言われてしまいました。ただ、作品としての面白みがあったため、「どうやって活用しようか」と話し合い、素材を釘やネジなどの「廃材」に絞り、制作したものをまちの図工室に隠して、来訪者に探してもらうというしかけにしました。 すると、視察当日に訪れた来訪者が、アニミーズを探すことをきっかけに空間のあちこちを自然と見るようになりました。来訪者がアニミーズを介して空き家再生空間に興味を持ったという発見から、アニミーズで実践をやってみたい!と思い、この卒業研究を始めました。
文化的処方
文化的処方とは、「自分らしさを起点に、アートや文化活動を通して人のつながりをつくる取り組みや仕組み」を指します。 本研究は、いわば「やりたいことをやってみる」というところから始まっています。最初から明確な目的や効果を設定していたわけではありませんが、結果として人の行動や関わり方に変化が生まれていたことから、この研究のアプローチは文化的処方の考え方に近いのではないかと考えました。そのため本研究では、アニミーズの実践を受け止め、整理するための理論的枠組みとして文化的処方を採用しています。<文化的処方の出典> 西 智弘, 伊藤 達矢, 稲庭 彩和子, 福本 塁(2025). 『文化的処方のはじめの一歩』, 独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンター・東京藝術大学「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」, 東京, 日本, ISBN:978-4-911341-05-6.
アニミーズの実践
アニミーズが誕生した2月に加え、4月、7月にもまちの図工室に滞在し、アニミーズによる実践を行いました。
来訪者は、アニミーズの簡単な説明を受けたあと、空間の中でアニミーズを探し始めます。その過程で自然と空間のあちこちを見るようになり、発見や観察を経て、次第にアニミーズの制作に取り掛かっていきます。
アニミーズには「廃材に目玉を付けること」以外のルールがありません。そのため、大人から子どもまで誰でも気軽に取り組むことができ、完成する作品も一つひとつ異なった個性を持っています。また、アニミーズの生息地や生態などを記入する記録用紙を用意することで、参加者自身が作品の世界観を広げられるようにしました。
実践では、こうした活動を通して、来訪者の行動や空き家再生空間への興味関心や関わり方がどのように変化していくのかに注目し、観察を行いました。
実践の分析
実践の中で見られた来訪者の行動を整理すると、- 「さがす・みつける」(初期接触)
- 「かんさつする・つくる」(参加・体験)
- 「さがしてもらう・みつけてもらう・かんさつしてもらう」(他者との共有・関与の深化)
- 「さらにつくる・ひろがる」(積極的な創作・活動の広がり)
社会の何に役立つのか
では、本研究は社会の中でどのような意義があるのでしょうか。 ひとつは、空き家再生空間への関わり方を変える(興味・関心のきっかけをつくる)手法として、整備や改修とは異なるアプローチを示せた点にあると考えています。 空き家活用では、「暗い・危ない・汚い」といったイメージを払拭するために、空間の整備や設備の更新が重視されることが多くあります。しかしそれらは、来訪者がどのように関わり、どのような関係性を築いていくかまでは十分に扱えていない場合もあります。また、コストや時間の面から、誰でも実践できる方法とは言いづらい側面もあります。 一方で、アニミーズによる実践は、来訪者の関与そのものに働きかけるものであり、大人から子どもまで参加できること、さらに活動が空間の外やまちへと広がる可能性を持っていることが分かりました。その結果、整備を先行しなくても、関わり方をデザインすることで空き家再生空間の課題にアプローチできる可能性を示すことができたと考えています。最後に
「やりたいことはあるけれど、役に立つのか分からないし、動く勇気がない」そんな人の背中を少しでも押せるような研究になっていれば幸いです。 本研究にあたり、ご指導いただいた福本准教授、名張市での活動を支援してくださった山口助教、そして実践の中で関わってくださった地域の皆さまに心より感謝申し上げます。 卒業研究としての「アニミーズ」は一区切りとなりますが、作品としての「アニミーズ」は、今後も引き続き取り組んでいきます。振り返ると大変なこともありましたが、最終的には納得のいく形で締めくくることができました。とても楽しかったです。ありがとうございました。





