Shading Graphic Score : Jeux d’eau

本研究は、濃淡を用いたグラフィックによる記譜の可能性を探るものである。現代音楽における記譜手法「グラフィックスコア」に着目し、音の高さやリズムを正確に伝える五線譜とは異なり、音楽の空気感や情緒、エネルギーの流れを視覚的に共有する記譜を目指した。
ラヴェル《水の戯れ》をモチーフとし、楽曲を7つのセクションに分解し、それぞれを濃淡のみで構成したグラフィックスコアとして制作した。

グラフィックスコアは、演奏者に再現を求めるのではなく、解釈を促す記譜であり、制作者と演奏者の共作という性質を持つ。
先行事例を調査する中で、形や線による表現は多く見られる一方、濃淡そのものを主軸にした記譜表現は十分に探究されていないことに着目した。
また、濃淡は時間性、気配、期待感といった感覚を生み出す力を持ち、音楽が持つ質的な変化と相性が良いことを視覚表現の事例から確認した。
このことから、濃淡は演奏者の解釈を促し、演奏結果の多様性を生み出す記譜手法になりうるという仮説を立てた。

モチーフにはラヴェル《水の戯れ》を選定した。
水というテーマと、情緒や空気感に富んだ楽曲構造が、本研究の目的と強く結びつくと考えたためである。
まず楽曲分析を行い、音楽的展開から7つのセクションに分解。それぞれの役割や状態を言語化し、その内容をもとにスコアを制作した。
グラフィックは具体的な形や線を用いず、濃淡の分布のみで構成している。
濃度の集中や拡散、方向性の偏りによって、音の密度、運動量、エネルギーの変化を示すルールを設定し、
演奏者がそこから音の運動を読み取れる構造とした。
展示では7点を縦に配置し、滝の流れのような構成とすることで、音楽の時間的推移を空間体験へと置き換えた。

濃淡による表現は、従来の楽譜が重視してきた再現性とは異なり、
音楽の密度やエネルギーといった質的な変化を伝える視覚言語として有効であることが確認できた。
演奏者に明確な指示を与えないことで、解釈の余地が生まれ、演奏の多様性を引き出す可能性が示された。
一方で、濃淡と音楽要素の対応関係が曖昧になる場面もあり、自由度が拡散しすぎる課題も明らかになった。
今後はそのバランスを整理することで、より精度の高い記譜表現へと発展させる必要がある。
本研究は、音楽の構造や体験を視覚化することによって、記譜のあり方を拡張する試みである。
