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構造と装飾

建築構造に装飾回帰をもたらす「3Dプリント技術を用いた建築」の研究
平川真太郎
学科・領域
修士課程 建築・環境デザイン領域
指導教員
山下 秀之
卒業年度
2025年度

1.研究背景

現代建築において、構造と装飾は乖離している。分業/効率/コストを重視する産業の中に、建築が組み込まれていることに起因している。しかし、3Dプリンターによる施工ならば、古典建築のように構造と装飾が一体化した空間を、現代でも実現できると考えることができる。本論は、その具体的な方法を研究するものである。

2.研究の目的と構成

<本論の目的>

本論の目的は、「3Dプリント技術を用いた建築」の造形に着目し、その可能性を探ることである。

本論は2部構成となっている。

第1部 現存する国内外の「3Dプリント技術を用いた建築」の研究である。

2部 構造と装飾が一体化される「3Dプリント技術を用いた建築」の提案である。

 

3.序章 「構造と装飾」、過去/現在/未来について

序章では、「構造と装飾」の関係について、過去/現在/未来の視点から、考察し、分類を行った。そのうえで、明らかにしたことを下記に述べる。

1 古典建築において、構造部材は装飾の対象で、「構造と装飾は一体化」していた。

しかし、現代建築においては、「構造と装飾は乖離」してしまった。

 

その背景に、以下2つの事象がある。

・モダニズム建築においては、「装飾は罪である」という感受性が発芽した。

・現代建築においては、工期と建設費の縮減への要求が高まった。

 

2「構造と装飾の一体化」の分類

「構造と装飾の一体化」は、以下2つに分類される。

1 「表層的装飾」の建築

 「構造部材の表面に装飾を施した建築」を指す。現代建築においては、途絶えてしまった。  

2 「力学的装飾」の建築

 「力学的構造が装飾的表現をしている建築」を指す。現代建築において力学的装飾は多くあるものの、コストの観点で一般的にはなりえない。 

[備考]

・構造部材は、主要構造と補助構造に分かれる。

・緻密/繊細であればあるほど、装飾の度合は高まる。

・表層的装飾と、力学的装飾は、両立しうる。(例:日光東照宮の肘木)

3「構造と装飾の乖離」は、3Dプリント技術により、再び「一体化」に回帰しうる。

3Dプリント施工は、ますます機械化されていくので、どんなに複雑で緻密な装飾であっても、構造との一体化に、工期と建設費の問題は、なくなっていくと思われる。

4.第1部 現存する国内外の「3Dプリント技術を用いた建築」の研究

「第1部」にて、以下の項目について調査・研究を行った。

・「3Dプリント技術を用いた建築」の詳細な分類

・整理・国内と海外における研究体制の違い

・今後日本において、どのように研究を展開していくべきか

以上を踏まえ、明らかにしたこと下に述べる。

1 「3Dプリント技術を用いた建築」とは、大規模に3Dプリント技術を用いた建築のことを指す。

 [備考]必ずしも構造である必要はなく、仕上げ材でも、構わない。

2 「3Dプリント技術を用いた建築」は、工法の観点から、以下の二つに分類できる。

1 3Dプリント直接工法

建築の構造体を”直接”3Dプリントする工法であり、ノズルからにゅるにゅると押し出された液状の材料を積層させ、その場で硬化させて構造体を建設する工法を指す。

*構造的に強みを持つ。垂直材(壁、柱)を造形することに向いている。

2 3Dプリント型枠工法

3Dプリントにて製作した「型枠」を、通常の型枠の代わりに用い、そこに従来の方式により液状の材料を流し込み、硬化後に脱型して構造体を建設する工法を指す。

*繊細な造形が可能である。装飾に強みを持つ。

[備考]2つの工法ともに、オンサイト造形もプレキャスト造形も、実施されている。

 3 空中の梁やスラブ(水平材)を、オンサイト施工した3Dプリント建築は、まだ実現していない

4 「3Dプリント技術を用いた建築」には、以下の傾向が強くある。

1 「力学的装飾」:3Dプリント直接工法によってなされる傾向が強い。

2 「表層的装飾」:3Dプリント型枠工法によってなされる傾向が強い。

5  国内とヨーロッパの3Dプリント建築の研究には、以下の違いがある。

1 国内:既存の建設過程を置き換えようとする

2 ヨーロッパ:新たな建築の造形を探求しようとする

 [備考]研究の方向性の違いは、国民性や研究環境の違いが大きく影響していると思われる。

 <第1部の結論と今後の予想>

第1部では、以下の2つを結論とした。

  現代において乖離されている「構造と装飾」が、再び「一体化」しうる方法として、3Dプリント技術は、極めて有効な手段である。

  3Dプリント技術により、繊細な構造と装飾を両立することは、建築構造に装飾回帰をもたらすきっかけとなりえる。

今後、以下の2つを予想している。

  3Dプリント技術により装飾と構造の親和性が高まる。

  有機的な造形を構造的に組み込むデザインの隆盛が起きる。

 

5.第2部 構造と装飾が一体化される「3Dプリント技術を用いた建築」の提案

<設計提案の内容>

第1章「表層的装飾」の提案では、3Dプリント型枠工法を用いて、構造部材の表面に装飾を施すために、立体的で幾何学的な和柄を検討した。そして、新たな型枠工法としてハイブリッド型枠を考案し、表層的装飾を実現する方法を検討し、以下の3つの提案をした。

1「幾何学的な和柄」を立体的に表現する型枠の提案

まず、幾多の柄や模様の中で「幾何学的な和柄」に着目した。その和柄を立体的に発展させ、コンクリート面に転写して、構造部材の「表層的装飾」を試みた。その際に「超極薄樹脂型枠」を応用する設計提案である。

2 ハイブリッド型枠の提案

上記の提案を発展させた「ハイブリット型枠工法」を考案した。「超極薄樹脂型枠」の不利な点を克服し、かつオンサイト施工を実現する工法である。コンクリートが固まり、型枠の脱型と同時に装飾が完成するため、時間短縮と人件費削減につながる。現代建築における「構造と装飾の乖離」が、解消される型枠の提案である。

3 同層複層建築の提案

 

 

 

 

 

 

 

 

直接工法とハイブリット型枠工法を組み合わせてできるプロトタイプ建築として、同形複層建築の提案である。「表層的装飾」を実現するのに、3Dプリント技術が有効であることを示した。

 

第2章「力学的装飾」の提案では、3Dプリント直接工法を用いて、構造部材のありようが装飾としての表現でもある具体的な設計を行なった。直接工法により、緻密で複雑な構造部材を造形する方法を検討し、以下の3つの提案をした

 

4 透かし装飾のコーン形状ルーフパネルの提案

3Dプリント技術とロボティクス技術を組み合わせて、複雑な透かし装飾の構造パネルを提案するものである。直接工法でも、複雑な「力学的装飾」を実現する上で、有効であることを確認した。

 

5 有機的パターンのリブスラブの提案

梁としての役割を持つ有機的パターンのリブによる大面積のスラブを提案するものである。型枠工法が、「水平方向」の「力学的装飾」を実現する上で、有効であることを確認した。

 

6 樹状柱とスラブの一体化モデルの提案

第1に、単体の樹状柱を、直接工法により作成する方法を提案するものである。直接工法が、「垂直方向」の「力学的装飾」を実現する上で、有効であることを確認した。また、積層方法の工夫次第で、樹状柱の表面に「表層的装飾」を施すことができることを示した。

第2に、垂直部材(樹状柱)と水平部材(スラブ)を、一体化して3Dプリントするモデルを提案するものである。六角形グリッドに従って「枝」が細かく分岐し、六角錐の「枝先」が間断なくスラブを支える。柱の形状によって、スラブを広範に支持することができる場合があることを示した。加えて、柱からスラブまでの全プリント工程を、全自動にできるので、時間とコストの大幅な短縮が見込まれ、画期的である。

 

6.研究論文の総まとめ

<第1部、第2部を通して>

第1部の調査と分析、第2部の設計提案、この両者は、同時並行で進めていったものである。そして、それぞれで、ほぼ同様の「着地点」を見出すことができたと考えている。それが、以下の3つである。

  現代において乖離されている「構造と装飾」が、再び「一体化」しうる方法として、3Dプリント技術は、極めて有効な手段である。

第1部にて、なぜ乖離が起きたのかを分析し、時短/分業化/コストカットに乖離の原因があることを示した。そして、3Dプリント技術が、その乖離を解消する可能性を示した。

第2部にて、それぞれの工法から、「構造と装飾の一体化」の方法を設計提案した。型枠工法は表層的装飾を、直接工法は力学的装飾を、それぞれ実現していくに適していることも示した。

  3Dプリント技術により構造と装飾の親和性が高まり、有機的な造形を構造的に組み込むデザインの隆盛が起きるのではないか。

第1部にて、既往研究と現状の調査研究から、3Dプリント技術を用いた建築の特性上、有機的な造形が得意であることを示した。

第2部にて、3Dプリント技術を用いて、これまで実現が難しかった有機的な造形を、時短/分業化/コストカットの観点でも可能にする方法を提案した。

  表層的装飾と力学的装飾が、オンサイト施工によりなされる構造体の建築が、その最終到達点であると言える。

第1部の調査分析、第2部の設計提案を通して、3Dプリント技術だけでなく、その他のロボティクス建設を組み合わせることで、さらに革新的な造形が可能になることを示した。その最終到達点は、表層的装飾と力学的装飾が、3Dプリントのオンサイト施工によりなされる構造体であると思われる。

 

<論文の結論>

以上より、修士論文の結論は、以下のとおりである。

3Dプリント技術を用いた建築により、「構造と装飾の一体化」への回帰がなされると言える