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まちのラベルを剥がす

〜スティグマと確証バイアスに埋もれた感情の再発見〜
市川萌音
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
環境計画・保存コース
指導教員
福本 塁
卒業年度
2025年度

みなさんは地元のことが好きでしょうか。私は初め地元のことが嫌いでした。
しかし、何気なく発している まちに対する「スキ」「キライ」といった言葉。

私はこの二極化された単純な言葉でしかまちを語れない状況を問題視するようになりました。まちにする感情は「スキ」「キライ」や愛着無などといった的な組みでは分にえられないのではないか。こうしたを本研究の出発点としています。

■なぜ「スキ」「キライ」と言ってしまうのか

私はまちで得た体験の記憶から地元をキライと評価していることに気がつきました。みなさんもまちでさまざまな体験をしているかと思いますが、その体験が集まってまちが形作られているとも言えると思います。評価している「まち」というのは行政区域によって区切られたまち全体ではなく、体験によって輪郭づけられた空間を指していると考えました。

そのため、まちを好く、嫌うということは、まちでのたくさんの体験とそれにより得た感情を簡単な言葉のラベルを貼って雑に一纏めにしてしまっているとも言えます

こうした状態が続いてしまうと特定の印象深い体験のみでまちを語り、偏った印象を裏付ける体験ばかりを連想してしまう状態が生まれてしまうのではないかと考えました。

そのため、本研究では主にまちを嫌っている人を対象にポジティブな体験を取り出すことでまちへの印象や感情に変化があるのかを明らかにしていきます。嫌いという印象を好きへ変化させたいといったものではなく、二極化されている感情の間に存在しているはずの、ニュートラルな感情を探ることを目的としたものです。

 

■ラベルを剥がす試み

こうしたラベルを剥がすために、私はサイコロ状のコミュニケーションツールを作成しました。
「いつ」「どこで」「だれと」「どんな思い出か」の条件が書かれており、サイコロの目に沿ったエピソードを語ると言ったものです。

 

■サイコロで見えた語りの変化

まちを嫌っているはずの対象者は、初めは強い拒絶が見られました。しかしポジティブな体験の抽出を行うと語りは変化し、まちで得た体験や記憶に対する愛着を読み取ることができます。

 

■二項対立的な枠組みで捉え続けてしまうと…

今回の調査ではラベルを貼り、「嫌い」「何もない」とネガティブな暗示をかけてしまっている人が存在していることがわかりました。本来多様な感情を持っているのにも関わらず、です。近年では特に「若者の地元離れ」が問題視されていますが、離れる選択をとった若者の中にもこうしたラベルを貼っている人が存在します。

このように二項対立的な枠組みで捉え続けてしまえば様々な愛着形成やUターン促進の政策が行われたとしても受け取ることができません。それはいずれ地元との関係性の分断や協力意欲の低下に繋がってしまう可能性もあります。

そのため、まずはネガティブな暗示を取り外し、新たな取り組みや実践を受け取る受け皿づくりを行う必要があると考えました。まちに対する感情を二極化せず、多様かつニュートラルに捉え直す必要があるのです。

■提案

そこで提案するのが「ラベル剥がし診断チャート」です。

調査を通して「スキ」や「キライ」の間にはこれだけの感情態度が存在することがわかりました。今回提案する「ラベル剥がし診断チャート」では最終的にこれらの「まちに対する感情態度のタイプ」のいずれかに行き着きます。

これは「スキ」「キライ」どちらか一方に偏った感情ではないことなどに気づき、自身の本来持つ感情について改めて考えるきっかけになると考えています。

まちを二項対立的な枠組みで捉え、好きにさせようとしたり、地元を「離れないようにする」ための政策が行われがちです。しかし、ネガティブな暗示をかけている状態では好きになることも、新たな取り組みや実践を受け取ることもできません。

まずは本人の記憶や体験を整理し、まちに対する感情を二極化せず、多様かつニュートラルに捉え直す。そうした小さな一歩が、暗示を解き、いずれずっと先の未来での地元との関わり方の幅を広げると考えます。