潮香の導き、子らは還郷の燈を結ぶ
私が本研究で対象地域として選んだのは、石川県最北端に位置する珠洲市です。
珠洲市は能登半島地震において甚大な被害を受けた地域の一つですが、半島先端部に位置する地理的条件も相まって、復興が円滑に進んでいない現状があります。そんな珠洲市を復興させるのが目的の研究です。
地震被害を受けた後も、この土地に「帰りたい」と願う被災者は少数ながら存在します。そんな人々を救いたい。しかし、まちの復興や生活基盤の再建は極めて困難です。
そこで本提案では、近年社会で問題視されている児童養護施設出身者が社会に適応できず、孤立し「帰りたい」と感じる心情と、珠洲市の被災者の思いを重ね合わせ、新たな支援のあり方を提案します。

海に近い低地から順に、塩田、製塩工房、児童養護施設、温浴施設を連続的に配置することで、土地の高低差と機能を重ね合わせた構成にしています。塩田と製塩工房は海と直接つながる生産の場とし、その背後に生活と滞在の機能を置くことで、人の営みが段階的内陸へと展開していく計画となっています。
また、周囲には広い牧場が広がり、その先に乳製品加工場を設けています。牧場ではジャージー牛を飼育し、子供達や来訪者が日常的に動物と触れ合いながら過ごすことができる環境をつくります。
搾乳された乳はヨーグルトなどに加工され、施設内で販売されることで、生産から消費までが敷地内で循環する仕組みを形成しています。

本提案は、単純に復興や支援を目的とするものではありません。「帰りたい」と願う被災者の思いと、社会の中で居場所を失いやすい児童養護施設者の思いを重ね合わせ、互いが支え合いながら生きていける循環の場を作るための新たな試みなのです。

塩田や牧場といった生業を介して人と人とが関係を結び、世代を超えて知恵と時間が受け継がれていくことで、この場所は単なる施設ではなく「帰り続けることのできる土地」となります。
更新し続けることで命を宿す建築として、珠洲は復興の先にある新たな未来を手に入れるでしょう。