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綿糸とガラスで感情を編み込む表現の研究

鈴木沙保
学科・領域
修士課程 美術・工芸領域
指導教員
中村 和宏

研究概要
 本研究は、自身の作品制作を通して私の内面的な感情と向き合うものだ。私が感じる内面的な感情は自身には受け入れがたいものであり、綿糸を編む時に認識することができる。しかし、編んだ綿糸だけで作品を制作することは不可能に近い。何故なら、編んだ綿糸のみで制作した作品を振り返ることは、私にとって羞恥心を感じるからである。そのため、編んだ綿糸をガラス作品として新たな素材に置き換えることで自身の内面的な感情を直視できると考えた。ガラス素材を媒体に独自の技法を取り入れた造形作品の制作を経ることで、私が受け入れがたいと思う自身の内面的な感情を少しずつ認められるように思う。

技法について
 私が開拓した技法は本来焼けてしまう綿糸を色彩豊かにガラスと共に電気炉にて焼成することを可能にする方法だ。綿糸とガラスを焼成可能にするには、陶芸用下絵の具を編んだ綿糸に染み込ませる工程を必要とする。その理由は、陶芸用下絵の具に含まれる顔料の物質の一部に鉱石や金属粉があり、それらは熱を持つと溶けて固まる性質を持つからだ。本来であれば異素材とガラスを一緒に焼成することは歪みが生じて割れる原因になるため非推薦とされている。独自の技法は制作したい作品の形状に即して工程を改変しながら行う。

表現について
 独自の技法を用いて「割れたもの」シリーズを制作した。モチーフとして自身が意図せずに割ってしまった器を使用している。私が割ってしまった器の破片を組み直すことを作品制作を通して行い、自身が割ってしまった器から思い出す記憶を反芻したいと思う。その理由に当時抱いた感情と現在に抱いている感情を比較することができると考えたためだ。コンセプトから作品になるまでの過程を振り返り、断片的に知る私の内面的な感情は自身が認識できない程に複雑な感情の表象であるように思う。