MENU

SLOW LIFE

妄想のタネをつくる映像の研究
鈴木 晴奈
学科・領域
視覚デザイン学科
コース
表現デザインコース
指導教員
山田 博行
卒業年度
2020年度

冷めきったカイロや、はしゃぐ友達、使い慣れた自転車、跨ぐには大きな水たまり。
そんな見慣れたものたちが、何かを想起させることがある。
人の持つ根源的な想像力は、一体どこから生まれるのか、私は創作を続けていくうちに考えるようになった。
例えば、頭の中に少し隙間を開けるような感覚。初めて物を掴んだ時のような、不思議な心地。
そこから妄想が膨らみ、ユニークなものが出来上がるのではないだろうか。
妄想のタネは、そんな感覚をつくるための起爆装置のようなものだ。
今後の未来に一石を投じるための、小さなタネである。

 

映像作品: 1920px × 1080px   15min

 

 

あとがき

なんだこれは?と思ったなら、それは私にとって大いなる成功である。
この作品は、納得するものではなく、違和感をつくることが目的であるからだ。
私は、研究に際して精神的な「すきま」の概念から探り始め、意識と無意識について、記憶の蓄積に至るまでの文献を読み漁っていた。また、写真と映像の特質についての方面からそれを捉えた時、その概念を映し出すことの難しさを知っていくことになった。これらの研究の過程を話すとおそらく日が暮れてしまうので割愛させてもらう。
「謎」というものが私の頭の中で、ひどく興味の惹かれるものであった。
映像作品は、私のこの探究心から生み出た異物といえるだろう。
この作品にシナリオはない。
主役のものがいつのまにかすり替わっている現象を、どこかで見たことがあるかもしれない。
まるでマジックのように、断片的なものは映像の中で繋ぎ合わせることができる。
それは、頭の中で視聴者が自然に流れを汲み取り、勝手に解釈しているからだと考えられる。
しかし、この作品はそれだけでは終わらない。
日常のありふれたものかと思いきや、ちょっと奇妙な行動を織り交ぜている。
これによって、視聴者はその意味を勝手に見出し、自分の記憶から引きずり出して何かに当てはめようとしているかもしれない。
そして、それはあなたが普通の日常を送っているのなら、当然違和感が芽生えることだろう。

「創造的緊張(Creative Tension)」という概念がある。
人がなんらかの創造性を発揮する際には、「妄想と現実とのギャップ」を認識することが欠かせないというものだ。
実現するか分からないアイデア、すなわち妄想(ビジョン)を生み出すために、この「妄想と現実とのギャップ」をつくる映像作品はできないだろうか、と考えた。
映像を観ることによって、これはなんだろうとか、こうなんじゃないかとか、考えを巡らせ、解釈し、意味を探っていく(妄想)。そして、現実の日常と照らし合わせてみた時に違和感を覚える。これが「妄想と現実とのギャップ」だ。
それが引き金となって、モノに対して裏と表があったことに気づいたり、新しい組み合わせを発見したりする。妄想を具現化することに繋がっていく。
こうして、創造性を発揮するためのステップを簡略化したような映像が出来上がった。

しかし、ひとつ重要なことがある。
それは、自主性である。
私が強制的にこのステップを踏ませるようであってはならないし、本来ならばこのような説明書きがないのが望ましい。
だから、純粋にこの作品を観て奇妙だなとか、ユニークだと感じられる印象的なものを目指し、視聴者の記憶とリンクする事によって、アイデアの引き出しの一部となるよう努めた。
そして、何か妄想するためのヒントになれば、という可能性を追求することは、私自身も身の回りのモノや行動に対し、意識を向けるきっかけとなった。
私が作品を通して提供したかったのは、エンターテイメント・アーティスト性も勿論あるが、それ以上に、現代を生きる人々への未来に対する付加価値である。