2025.02.10
2024年度卒業・修了研究優秀賞が決定しました
2024年度の卒業・修了研究の優秀賞が決定しましたので公開します。
【プロダクトデザイン学科】
岩根 未奈 (金澤・山田研究室)
鈴木 春奈 (金石研究室)
喜多川 百華 (増田研究室)
【視覚デザイン学科】
澤田 晴 (ビューラ研究室)
鈴木 涼馬 (ビューラ研究室)
山﨑 未夢 (ビューラ研究室)
平澤 和 (長瀬研究室)
江端 翔子 (真壁・平原研究室)
伊藤 佑里香 (阿部研究室)
今井 理子 (山本敦研究室)
齋藤 紗葉 (天野研究室)
三枝 駿希 (吉川研究室)
宇田川 紗登美 (池田研究室)
【美術・工芸学科】
乾 悠里 (遠藤研究室)
小林 桃子 (小林研究室)
小林 優月 (中村研究室)
廣田 勘太郎 (遠藤研究室)
和美 圭祐 (中村研究室)
【建築・環境デザイン学科】
岩﨑 愛葉 (北研究室)
小林 一誠 (北研究室)
石黒 桜和 (福本研究室)
長田 津都未 (山下研究室)
濱武 美輝 (山下研究室)
蛯名 朋花 (柏原研究室)
【大学院造形研究科 修士課程】
須田 瑞希 (山下研究室)
三井 琳世 (板垣研究室)
佐川 和暉 (藪内研究室)
櫻井 康平 (北研究室)
佐藤 天衣 (羽原研究室)
原田 旺輔 (北研究室)
各学科・研究科の優秀賞の紹介
【プロダクトデザイン学科】
受賞者 | 研究テーマ【作品タイトル】 | 選考理由 |
岩根 未奈 | やわらかいことが可能にする新しい機能的価値の研究 【floaffy】 |
新しい収納のあり方を研究した。やわらかい部材にふわりと挟むように収納物を保持させる提案は、モノを重力から解放させて魅力を引き立たせる。硬い芯材を覆うように発泡させた部材を、ユニット化して壁に設置することで、グラフィカルな空間演出になることも魅力である。 家具がやわらかくなることで生まれる心境変化を、試作を繰り返すことで追求したこと、部材硬度の適切化や表面材の検討など妥協しない研究姿勢も評価された。 |
鈴木 春奈 | 都人間の心の醜さの可視化、目を逸らせがちなものを衣服で表現する研究
【虞】 |
ファッションにおける表現の中で一個人が思う感情や哲学を表現し、そこに共感を得ることによるコニュニケーションを確立させる目的がある。鈴木さんは、人間そのものが持ちえている醜い感情やエゴなど、あえて表舞台で表現しづらいことを衣服を通じて発表している。テクニックも染めの技術を駆使して一からの素材造りを経て、自らデザインしたシルエットをパターン化させ、縫製という造形物を見事にまとめた。また、ファッションショーでは威圧感とその存在感を見事に演出した点と、工夫を凝らした展示方法も上記に合わせて評価する作品であった。 |
喜多川 百華 | 手書き表現による感情伝達の新しい可能性の探究 【to:ink】 |
本研究は、人が紙に向き合い手書きで記す「手紙」という文化がネットワークを飛び交う無機質なテキストデータに取って代わられた現代において、再び手書きの文字、絵による「手紙」文化をインターネット空間において再興しようとする試みである。コンセプト、システムも緻密に考えられており、最終的なプロダクトデザインも完成度が高く、さらに自ら通信コードを書き、可動モックアップまで製作したことを高く評価する。 |
【視覚デザイン学科】
受賞者 | 研究テーマ【作品タイトル】 | 選考理由 |
澤田 晴 | 対位法による映像表現の研究 【カクレミノ】 |
音楽と映像の印象を対立させる手法の研究にあわせ、音楽の演出を中心にした2人のアウトサイダーのヒューマンドラマ短編です。音響編集はもちろん、撮影技術やカラーグレーディングまでの映像編集、ストーリの語りなど、この社会的なテーマに非常に相応しく表現されます。本人は監督とプロデューサーとしてがメインですが、研究室の撮影チームの皆さんの力で完成度の非常に高い作品になりました。 |
鈴木 涼馬 | 性的マイノリティについて考えるきっかけとなる映像作品の研究 【それで十分】 |
「それで十分」と言うタイトルで性的マイノリティについての短編映像です。2人の主人公の日常生活やその幸福、悩みが表現されます。雪国のさまざまなロケーションを演出して、丁寧なフレーミングとカメラワークでストーリーがゆっくりとしたテンポで発展されます。本人は監督とプロデューサーとしてがメインですが、研究室の撮影チームの皆さんの協力で完成度の非常に高い作品になりました。 |
山﨑 未夢 | 短編3DCGミュージカル制作における技術と表現、マーケティングの研究 【採星!テラは発明家】 |
舞台のミュージカルを3Dアニメーションで表現すると言うユニークなフォーマットで完成させた作品です。この企画に合わせて作曲と歌詞、歌唱まで、作品の全てを1人で制作しました。音楽に限らず3幕のストーリテリング、3Dの表現と技術、映像的な演出についてもきちんと研究を行いました。そして、1年間のバンクーバーでの留学の際、勉強した「デジタルマーケティングプラン」を活用して作品の延長としてグッズなども開発しました。 |
平澤 和 | なんでもないものをおもしろくする研究 【ニュ-ボ〜ン倶楽部】 |
身の回りにある何の変哲もないモノたちが、彼女の魔法に掛かると途端に命が宿り、今にも動き出しそうに見えてくる不思議な作品である。3年生の演習課題から研究は続いており、作品スタイルとは裏腹に、自身が思い描く理想的作品を目指して常に試行錯誤を繰り返し、これまで真摯に制作を重ねてきた。ユニークなコンセプトで独自性もあり、研究テーマにあるように、作品のみならず観る人をもおもしろい気持ちにさせる作品である。よって、優秀賞に相応しい制作研究であると高く評価した。 |
江端 翔子 | 影を使用した表現手法の研究 【かげのリズム】 |
影の性質を活用した表現方法を探究し、独自の空間映像体験を創出した。 限られた色、形、光源のみで構成されながらも、巧みに展開を生み出し、一つの演目として成立している。 また、視覚的な表現だけでなく、作曲、造形、機器の制御プログラムに至るまで、すべてを作家自身が手がけることで、統一感のある作品となった。 身近にある現象を深く掘り下げ、それを表現へと昇華させた点が高く評価された。 |
伊藤 佑里香 | 二元論化された【記録】と【記憶】の再融合を図るドキュメンタリーの研究 【ばぁば】 |
おばあちゃんを撮影したいと言われた。なぜかと聞くと、認知症を患っており、それをドキュメンタリーに仕上げたいとのことだった。 第一の課題は、両親と祖母の許可を取ることから始まり、撮影に挑んだ。頻繁に長岡と愛知を行き来し、何度行ったことだろう。 膨大な映像素材の撮影、演出、編集、監督までを一人でやり遂げた作品です。 |
今井 理子 | (有)小国和紙生産組合のリブランディングの提案 【雪輪日和】 |
自分の両親が営む伝統的な和紙工房「小国和紙生産組合」のリブランディングと商品開発を実践。リブランディングでは、企業理念「風土に生きる紙づくり」を強化する3つの軸を設定し、新たなロゴマークやパンフレット、WEBを制作した。商品開発では、小国地域の気象情報や日の出・日の入りの時間をグラフィック化し、366日分の雪の結晶をデザイン。これを結婚記念日や誕生日向けのオリジナル和紙として商品化を提案した。雪の結晶の企画は、複雑な条件を理論的に捉えた優れた研究と評価され、和紙で統一された展示空間も温かみのある雰囲気を演出している。 |
齋藤 紗葉 | 文字表現におけるルビの視覚的効果についての研究 【ちいさな文字】 |
日本語の組版は、多言語の組版に比べ自由度が高い反面複雑でもある。その中でも「ルビ」という表記法は特徴的なもののひとつである。その「ルビ」についての組版ルールを徹底して調べ上げ、更にそこから独自の表現へと発展させた本研究は、大学院での研究テーマとして十分に通用するものだと思われる。特に評価に値する点は、ルビを通して日本語および日本語組版の魅力を伝えていることと、これまでにない新しい読書体験を促していることである。 |
三枝 駿希 | 海洋ゴミ問題の危機を伝える海洋生物のイラストレーションの研究 【1000年後の海】 |
海のない地域に生まれ育ち2歳から絵を描き始めた三枝駿希さんは、海洋ゴミ問題に着目し1000年後の海を案じる青年として立派に成長した。それらの想像は、調査分析により組み立てられた仮説をもとに、想像の海洋生物を点描を用いた細密イラストレーションで描いただけでなく、それらの海洋生物が生息する海中の環境を切り取りレジンで固め、あたかも存在する標本かのように見事に表現している。調査分析と考察、イラストレーション表現の精度、多角的な視点、本質を見極めたコンセプトの視覚化などを高く評価した。 |
宇田川 紗登美 | ドキュメンタリー写真を通じた地域の魅力発信と新たなつながりの創出 【パブリックハウス ニューいな】 |
何も無い街「伊那」。いなか「伊那」。と彼女は笑って言う。社会を見るローカルフォトをテーマに昨年、地元のギャラリーで個展を開催した。古臭い路地や昔からある商店街、スナックのオーナー、元気な小学生が淡々と写し出されている。どこかしら昭和で、どこか懐かしい。観る人を魅了しこころを揺さぶる写真は簡単には撮れない。この夏彼女が市内で下宿を行いスマホではなく一眼レフを首から下げて数ヶ月撮影した成果でもあった。 |
【美術・工芸学科】
受賞者 | 研究テーマ【作品タイトル】 | 選考理由 |
乾 悠里 | 愛 【あい】 |
美術、芸術の探究の根源に真・善・美というものがある。乾さんの卒業研究は、これらを包含して余りある「愛」についての絵画によるインスタレーションである。それは、当人がいうところの「そのもの」として描くこととして取り組まれた。今日的な絵画の表現の命題の一つとして、絵に捉えようとする、まさに「そのもの」としてたちあらわれるというレベルに届き、かつ、そうしたことを凌駕し生きていくことの行為として描かれたことを評価します。 |
小林 桃子 | 安らぎと悦びをもたらす刹那的な場をつくる 【さっき食った炒飯美味かった】 |
雪が空から舞い降りてくる様子を目を細めて見ていると、ふと、この作品のイメージの続きに入っていくような感覚を覚えた。 長い時間の蓄積と、繊細に、優しく、時に鋭い眼差しを持って積み上げてきたことがじんわりと伝わる造形である。その特別な時間軸を持った空間で過ごした人々が、日常の世界へこの記憶を持ち帰るということまでイメージされた作品の、作者の問いかけが続いていくという構造にも注目してみたい。 |
小林 優月 | 不器用であること 【Way back home】 |
『不器用さを直そうとしてまた不器用になる』彼女の言葉である。不器用な自分を研究対象に1年間ガラスという素材と対峙し続けた。その日その日の自分の選択を尊重することで、今の自分に起きているすべてのことが繋がっていることに辿り着く、ガラスの器を作り続けることは 彼女にしか造れない不器用な自分を認めそこから生まれるものであることを見出した。この作品はそんな不器用な彼女が不器用に作り続けた自身の不器用な器となる。僕はそんな器を愛おしく思う。 |
廣田 勘太郎 | 繋がりを作る絵画についての研究 【明日の地図】 |
この半ば強制的につながり続けてしまうデジタルな時代に、それとは異なる「繋がり(を求める過程)」を問うような絵画表現は流動的で未完(というより無完?非完?不完?)であるような作品群として提出された。またそれを廣田さんは「外」へ出ようとする衝動としてともいっている。この今日的な世界認識と、それに対するリアクションとしての表現の探求は、より私的な行為の探究において普遍性を求めようとするものとして評価します。 |
和美 圭祐 | ガラスの質感による内側と外側の表現研究。 【Beside】 |
大好きな怪獣と遊ぶ幼い時からいつの間にか大人へと成長してしまった自分に問う、『殻を纏い今を生きる自分』その内側の形を少しづつトレースすることから生じる恐怖と葛藤をもとに、本当の姿ををガラス素材を使用し造形研究題材として進めた。 独自の技法を見出し1年間の思考と制作したおもちゃの怪獣たちから感じる郷愁と正義は、今後彼自身の成長に大きく影響し、 誰かの心に影響を与えるようなモノになるであろう。僕も含め現代社会に生きる大人たちにもピリッと感じるものがあるの では? |
【建築・環境デザイン学科】
受賞者 | 研究テーマ | 選考理由 |
岩﨑 愛葉 | 基礎から考えるイヲノスケープ ー養魚場のコードを読み解き、魚沼に環境教育施設として構築するー | 魚沼の山中、不思議な形のコンクリート基礎の上に浮かぶ、雲のような建築群。川魚たちの泳ぐ、環境教育施設である。岩崎さんは養魚場や山村集落などへの膨大なリサーチを元に、人と自然にかかわるデザインコードを編み上げ、この建築に結実させた。あらゆる部分に彼女の濃密な思考が詰め込まれており、放っておけばおそらく2時間は語り続けるだろう。しかもそれらの部分がバラバラになることはなく、むしろ、ある一貫したメッセージを放つ。「生き物への感謝」。この言葉に、岩崎さんのやさしさがあらわれている。 |
小林 一誠 | ある空間のための音楽? ーBrian Enoを手がかりとしたアンビエント・ミュージックの制作方法論の実践的探究ー | 建築・環境デザイン学科の優秀研究なのに、小林君が生み出したのは、建築ではなく、音楽。しかし彼は、建築設計者以上に誠実に、研ぎ澄まされた感覚で空間に対峙し、その声を聴く。そして拾い上げた声を元に音を編み、またそっと、空間へと戻す。この対話的過程を通じて、彼は間違いなく空間を、建築を、環境を、デザインしている。アンビエント・ミュージックの大家であるブライアン・イーノの思想を継承し、かつ批判することで自身の作家性を打ち立てる一連の過程の論理性も、小林君らしくクールである。 |
石黒 桜和 | 花のある風景をつくる ー花を用いたコミュニケーションデザインに関する研究ー | 本研究は、まちと個人のかかわりしろをデザインする実践として、屋台を制作し、訪れた人に無料で花を贈る取り組みを行った。本実践は、ポジティブな連鎖を生み出し、多様な空間で来訪者が笑顔になり、片手に花を持ちながら交流する風景を創出した。自身が主体的にまちと関わり、ハレの機会に限定されがちな「花を贈る」文化を日常的なケの行為として再解釈し、地域の活性化を促した点は高く評価でき、人口減少が進む甲州市において多くの住民の支持を得ており、地域社会におけるデザインの可能性を示している。 |
長田 津都未 | 蝦夷のまほら_ハスカップワイナリーが誘導する産業転換、<環むろらん>を描く | 挑戦的な長田津都未の壮大なる「人生計画」、無限大の可能性を秘めたひとりの女子学生のストーリーで、勝手に予定している室蘭市長からの連絡が、65歳の時、きっとある。ストーリーは、3年前期の課題作品から始まった。華奢な彼女から提出された半端ない質と量の設計図を見て、その原動力が、いったいどこにあるのか、不思議だった。3年後期のグループワーク課題作品では、チームをうまくハンドリングし、リーダーの資質をいかんなく発揮した。メンバーを包むだけではなく、問題解決力に優れ、大人(私)との協議にも障壁なしだった。卒業設計では、得意とする「ぷりん」とした有機的な建築形態が、空間に小さな渦の流れを発生させ。それが、アグリランドスケープの畑の渦群と連鎖し、さらに広大なスケールの「循環・円環」に演繹し、「室蘭のリ・ストラクチュアリング」を稼働させる。このデザインコンセプトは、山下研究室の2003年度修論「雨あそび空間」で、中野由梨子の研究に端を発し、近年では、2019年度「るくるまるくる」の山下研3年生たちにも見られ、今それを、長田津都未が集大成にしてくれたのではないだろうか。 |
濱武 美輝 | かぐら_天降る地日向、高千穂にて、民俗信仰における聖と俗の「域」の探究 | 思想・哲学・宗教にコミットメントできる作品は、そうそう現れない。いや、今時分の大学生(いや、大半の建築家も含め)にできるはずもないのだから、皆無と言っていい。それは、「日本の神はどこに? 神楽? 私たちは?」から始まった。エルサレムには、嘆きの壁(ユダヤ教)、聖墳墓教会(キリスト教)、そして岩のドーム(イスラム教)があり、巡礼の地となっている。濱武美輝が答えを出せた理由は、日本神話の「聖地」である「高千穂」に生まれ育ったこと、そして、彼女が「聖なる空間」として「神楽を奉納する空間」を設計する能力があったから、に尽きる。厳格に極められた「線の集積」。彼女が引いた、非線形幾何学の線は「聖」であり、線形幾何学の線は「俗」であり、その「折り合う度合い」が、神楽の奉納による「時間軸」で変化していく。冒頭の難問とその答え探しである設計作業を、誰ができるというのだろうか。2年生の終わり、丹下の東京カテドラルを訪ね、建築と真剣に向き合いたいと思った、という。3年前期、独創的にエレガントだった課題作品は、答え探しだった。今、濱武美輝は「聖なる空間」に答えを返したのではないだろうか。 |
蛯名 朋花 | 景観解剖学-人を操る風景のつくりかた- | 景観を構成要素に分解して評価することは良くあるが、花札の「役」にならいゲーム性、遊びの要素を取り入れたことで、ランドスケープに興味がない人から子供まで直観で外部空間を操作できる「プレイマット」と景観の「役」を創り出している。 ランドスケープを広く一般の方々に理解してもらうだけの目的ではなく、設計者が「プレイマット」を利用することで、平面、断面、スケッチの確認が一度に行えることに加えて、小型カメラを利用すればシークエンスの確認が可能となる。 一般の人はもとより、設計者にも利用価値が高い「景観解剖学」の研究・制作は、新規性があり優秀賞にあたいする。 |
【大学院造形研究科 修士課程】
受賞者 | 研究テーマ【作品タイトル】 | 選考理由 |
須田 瑞希 | パフォーマティブ・セノグラフィー研究 パフォーマーの動きとセノグラフィーの動作における「呼応/双対性/一体化」について |
11万字を超える「大作論文」である。高校時代に端を発する舞台芸術(セノグラフィーデザイン)への興味を、今に至るまで絶やすことなく拡張し続け、研究に励んだ。本人が見出した「パフォーマティブ・セノグラフィー」という言葉は、外国アーティストがたった1人だけ使っているだけであり、研究論文などは国内外で存在せず、研究に新規性と希少価値がある。古代ギリシャから世界最先端のデザインまで、「セノグラフィーの動作」という、たった「1つの視軸」で論考することができたのは、画期的だった。さらに、2項対立だった、セノグラフィーの機械的動作とパフォーマーの人間的動きの関係を、最終的には、両者を融合させるコンセプト(両義性)に昇華し、ヒューマノイドにまで射程を伸ばした未来予想も、画期的だった。ベルリン在住の著名セノグラファー瀬山葉子さんの作品作りにインターンとして参加したことに加え、論文作業の途中で、瀬山氏の意見を取り込めたことが、論考を確かなものにしている。査読主査の真壁先生、副査の瀬山葉子さん、ともに、1)論文にあるチャート(分析グラフ)の作成、2)自身のパフォーマンスによる検証の2点を、とても評価されていた。セノグラファーとしてヨーロッパに戻るつもりの須田瑞希にとって、論文はバイブルになるのではないか。 |
三井 琳世 | 国際協力における持続的な活動参加に有効なエンパワーメント要因の考究とデザインプロジェクトに関する一考察 -ラオス人民民主共和国でのデザインプロジェクトChampayayamproject”の実施とその効果の検証について | 当該研究は,本人が長期にわたって携わってきたJICA草の根事業の諸活動に継続的に参加してきた村人たちのエンパワーメント要因をTEMによって導き出し,それらを指標としたデザインプロジェクトのあり方を提示したものである。そもそも,国際協力におけるデザインプロジェクトは決して多くはなく,それを題材とした先行研究は皆無に等しい。三井さんの研究は、国際協力におけるデザインの新たなる可能性を提示し得るものと言える。 |
佐川 和暉 | 木目金と自己によって導かれる造形 【然】 |
本研究は、金工分野での伝統技法である木目金技法のあり方に感じた自身の問いの答えを探し、作品制作を通じ、思考を紡ぎながら独自性を持った造形論として表出させた成果である。高度な技術と金属素材への理解に基づき、独自の素材を作るべく技法の探究に取り組んだ。その格闘から滲み出る「制作者自身が関わった木目金素材自体の歴史」という視点は、工芸論の展開を期待させ、金属工芸の表現の可能性をも拓くものである。 |
櫻井 康平 | アジールについての建築論的視座の構築――現代におけるアジール空間の創出に向けて―― | 卒業研究では4畳大の手描き図面で度肝を抜いた櫻井君が、今度は約16万字の大論文を書き上げた。表現方法は違えど、テーマは一貫している。「アジール」。人の心の拠り所となる自由領域を指すこの概念を、O.ヘンスラーや網野善彦などの先行アジール論に出発し、西田幾多郎やM.ハイデガーらの哲学思想を経由して、ついに建築論へと接続した。建築はそれ自体ではアジールになりえず、アジールへの志向性とその作用が反映されるのみであるという結論は、我々がただ護られるだけではなく、考え、求め続けるべき存在であるという自覚を迫るものであり、実に彼らしい。 |
佐藤 天衣 | 外部空間における人間と猫の共存の実態に関わる調査研究―地域猫活動を通してー | ネコを愛してやまない佐藤さんの研究である。卒業研究では,環境エンリッチメントに配慮したネコの保護施設の設計を行った。修士論文では,人間の住まう地域と外部環境で生活をするネコの関係に焦点を当てた丁寧な調査・研究から,地域猫活動の実態と猫の生態の一端を明らかにした。そして,人間とネコがともに幸せに暮らせる環境について考察し,提案している。もちろん,ネコ嫌いな人にとっても,重要な知見が含まれている。また,地域猫活動は,地域の美観や,防犯,コミュニティの形成などに有益であることを示している。今後,ネコが関わる環境を構築しようとする人たちや,行政での制度設計を行う際などに活用されることを期待したい。 |
原田 旺輔 | 地域がひとつの家だとしたら―地域スキーマの可視化を通じた、「らしさ」を育むまちづくりプロセスの提案と実践― | 「駅はこの街の玄関口」「あそこは俺の庭みたいなものだ」―。地域と家との間にある相似的関係を発見した原田君は、地域像を間取り図として描くことで「地域らしさ」を可視化・共有する方法を打ち立てた。それだけではない。地元・波田の「庭」にあたる田園地帯の真ん中で、畑を公園にして遊ぶ「HATANIWA PARK」を実現させ、街を変えて見せたのだ。引っ込み思案だった原田君が、中学校での連続ワークショップ、畑での社会実装と、次々に地域の人々を巻き込みながら活動を進めていったこの2年間は、指導教員として感動すら覚えるものであった。 |