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偶然を残した美しさ

-にじみ染による表現技法の可能性-
樋口玲実那
学科・領域
修士課程 プロダクトデザイン領域
コース
テキスタイル・ファッションデザインコース
指導教員
鈴木 均治
卒業年度
2022年度

無意識のうちに覚えるよろこびや美しさが染の作業に隠されている。その感情が芽生えるのは染色工程の実際で体感するもので、作業を経験したものでないと味わえない感情であるだろう。真っ新な布や紙を目前に染料を含ませる瞬間は気が張り詰め、憂わしい。しかし、筆や糊を繊維の上に置いた瞬間にはじんわりと染料が染み入り、にじみ、安心する心地よさと素材に触れる美しさを同時に感じることができる。染み入ることは自身にとって心に触れるもの、体感的な内部から染みてくることであり、布が染まっていく感覚や感情に密接なつながりがあるであろう。

研究目的

にじみ染とは、意図しない部分に染料が布地に染み込んでいき、予測不能で偶発的な動きを特徴とした染色技法の一つである。自然な浸透に身を委ね不規則な表情がにじみの美しさでもあるが、にじみがどこまで広がり続けるのか予想がつかないという欠点もある。そこで、本研究/制作ではにじみの特徴である偶発的な染料の動きを残しつつも、その行為に反する刷毛やその他の道具でコントロールする。平坦な布地から色彩の積層と奥行きを感じることのできるテキスタイル制作、表現方法を追求し、新しい染色技法の可能性について提示することを目的とする。

「ゆれ」不安定で連続的に動き、周囲の影響を大きく受けながら状態や方向が変化する。風浪によって巻き起こされる水飛沫をモチーフとしている。水飛沫が魅せる、予想のつかない表情と波が訴えかける力強さ、迫力を表現。

「ぶれ」

真っ直ぐな直線に対して湾曲しながら進み、一点軸から次第にずれが生じる。風によってぶれながら上昇する炎火をモチーフとしている。上下で重ねた色に変化をつけることでにじみが相互し合い、奥行きを表現。

「ぼけ」

目前の視界にフィルターをかけることで物の色や輪郭がぼんやりとすること。光のスジが枝葉に重なりあう瞬間の木漏れ日をモチーフとしている。上下で重ねた染料同士が互いに侵食し合うことで色彩の積層と襞(ひだ)を表現。