絵画空間について
【研究内容】
「絵画空間」とは、絵画の持つイリュージョンによって鑑賞者に知覚される空間である。四角形の外形を持つ二次元平面上(キャンバス)に描かれた表象は、鑑賞者に存在するはずのない奥行きや空気感、実在感をもたらす。それがイリュージョンである。
自身の考察文ではこのイリュージョンを二種に弁別し、絵画空間と鑑賞者の「主客の転換」について述べている。
抽象表現主義が作成した人間以上の大きさのキャンバスは、物質的世界への言及の先駆けとなり、キャンバス内部のイリュージョンから、キャンバスの外部へ及ぶイリュージョンになったと自身は考察した。
この(キャンバスの外部へ及ぶ)イリュージョンを、新たに「現前するイリュージョン」として自身の考察文で提起した。
キャンバスの中を覗き込むような、奥行きを生じさせるイリュージョンを、『引き込むイリュージョン』として置いたときに、絵画によって発生する空間感や場の雰囲気など、キャンバス外に生じるイリュージョンを『現前するイリュージョン』としている。
この二種のイリュージョンを踏まえた上で、絵画は鑑賞者に「見られる」だけの、「客体」から、鑑賞者の居る場そのものを取り巻く「主体的」なものになりつつあるのではないかという考察を提示した。
(本展示は上記の考察のもと制作されたものであるため、作品理解の補助としてご一読いただきたく思う。)
【作品タイトル】「four paintings」
本作品のテーマは「主客未分空間」である。「主客未分空間」とは、主体と客体の入り混じった状態の空間を指す。つまりは、自身が提起した「引き込むイリュージョン 」と「現前するイリュージョン」の二種のイリュージョンを持ち合わせた作品である。
キャンバスの内側の表象は鑑賞者を引き込む動きと、外部に拡張していく動きの両方を持つ形態にした。また、キャンバス地と描かれた図の面積差を作らないことで、キャンバスの布を物質としてではなく表象として見えるようにした。
そして、四つの絵画を並置することで、絵画の四辺が互いに呼応し、キャンバスの外形が受動的な物ではなく強固な主張となるような空間を作り上げた。
この半絵画、半物質的オブジェクトによって、絵画と鑑賞者の主客がせめぎ合う空間の創出を本展示の狙いとする。