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Temp Tens.

~小径間伐材による仮設空間の展開可能性を探る~
鑓水栞菜
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
建築・インテリアコース
指導教員
佐藤 淳哉
卒業年度
2020年度

本研究では、林業「間伐材」の利用と、都市における「仮設建築物」に着目し、
構造ユニットの提案を行います。

[林業について]
自然が美しい日本。
そんな日本は国土面積の約7割が森林となっています。


森林が豊富な日本ですが、
⒈国産材の消費率低迷
⒉間伐材の低需要
といった問題を抱えています。

⒈国産材の消費率低迷
 日本は戦後復興需要による木材消費で多くの山が荒廃しましたが、昭和30年代には国の政策により拡大造林が行われました。その後、木材輸入完全自由化をきっかけに、輸入材に依存し始めます。
震災復興や拡大造林木が適齢期を迎えていることにより、少しずつ国産材も利用されてきていますが、平成30年で木材自給率は36%です。
国産材はもっと利用することができるのでは無いでしょうか?

⒉間伐材の低需要
間伐は、山を育てる上で必要な作業ですが、不況により間伐の手が及ばず放棄状態の山や、間伐材の需要が低く売れないため放棄されている山もあります。
間伐材の利用先として様々なものがありますが、間伐材の発生量に対して利用率は少ないのが現状です。

林業をうまく循環させるためにも、間伐材の需要を高め、価値を上昇させる必要があることから、間伐材に着目します。その中でも、
特に流通先の限られる小径木を対象とします。14cm未満の間伐材を中心に、小径木の需要を高める新たな利用方法として
建築の構造体としての利用を検討します。

[都市における仮設建築物]
 建築は都市機能を担っていますが、常設の建築では担いきれない余剰があり、それらを補完する役割として仮設建築物が存在しています。

生活の中で様々な仮設建築物をみかけますが、災害や近年のコロナウイルスの影響も受け、いつでも必要になるものだということが認識され始めました。
今後も、様々なシーンに対応しながら余剰を担うには柔軟に対応できることが必要であると考えます。
 そこで一つのあり方として、組み合わせることで規模を変えられる仮設建築物の空間展開の可能性を提示します。
その構造体として、小径間伐材を利用したシステムを考案し、間伐材の付加価値向上や新しい利用法の一端を示します。

 小径木の特徴と、目指す仮設建築物の姿から、それぞれに対応する構造としてテンセグリティ構造での展開を計画します。
テンセグリティ構造とは、圧縮材と引っ張り材がピン接合で接合され、引っ張り材の調整によりバランスを取りることで成り立つ構造体です。
 

 引っ張り材の調整により成り立つテンセグリティ構造は、材が不均一な小径木にとって優位であると考えました。材の接合部を作成し、劣化した材の置換も可能にします。 大きくも小さくも成立することができるテンセグリティ構造を一つのユニットとした場合、組み合わせにより自由な空間を生む仮設建築物を可能にすると考えました。

テンセグリティの形は圧縮材の数に対応して形も変化します。

単体でテント機能も持てる形として、圧縮材をV字にしたユニットの作成を行いました。以下のものを用いて作ります。手順は全部で9工程、1人で簡単に組み立てることができます。

材の接合部は堅木を用い、ケヤキを利用しました。形状は、和傘の天ろくろからヒントを得てデザインしています。穴が徐々に小さくなる構造を利用し、圧縮材の径が一定でなくても対応することができます。圧縮材と接合するにあたり、木ネジの仕組みを利用し、材が劣化した際の置換を可能にします。

並べたり長さの違う材を使ったりすることで、様々な使い方ができます

また、このユニットは積層可能性も秘めています。2014年、アメリカ、インディアナ州。ボール州立大学で行われたプロジェクト、UNDERWOOD PAVILIONを既往研究として参考にしています。この研究から、圧縮材にスリットを入れ、引っ張り材の中点に固定することで空間を広げていくことが可能であるという結果が得られました。本研究ではそれを参考に、小径木にスリットを入れ、空間を広げていく方法で展開可能性を探ります。

街に展開されるTemp Tens.

頂点にいくにつれ、ユニットのサイズを小さくし、横に積みます。メンブレンの引っ張り力を利用し、空間を作ります。

都市の隙間に空間を。ユニットの数を変え、空間の規模に対応することができます。

ユニットを上に積んでいきます。ユニットの数、高さにより空間を変化させることができます。

圧縮材の長さを変えることで庇を生みます。材の長さが違う場合でも、用途に合わせた機能をつけられる可能性があります。

使用規模に合わせて、いくつかの作成したVユニットを持ち寄り、空間を作ります。

現在のコロナ禍のように、余剰は色々な要因で変化するでしょう。変化する余剰に対し、仮設空間も対応していける姿を目指します。本研究は、その端緒です。
今後、被覆材であるメンブレンをテンセグリティシステムの引張材とする可能性の追求や、ユニットの積層方法に関する検討をテーマとし、研究を継続する所存です。小径間伐材による新しい仮設空間を。

Temporary × Tensegrity

 

最後に。
 興味を持ったことには突っ走ってしまう性格。周囲の注意にも耳を貸さずとりあえずやってみないとわからないじゃん精神でやってしまうわたし。案の定、今回もへこたれそうになりました。右も左もわからないのに構造に興味を持ち、いろんな人を巻き込んで1年間走ってきました。そんな私を支えてくださった佐藤先生に感謝します。ゼミのみんなもありがとう。
また、構造という未知の世界へ足を踏み入れたからこそ出会えた人たちや、聞けた話があり、自分自身の経験値を上げるきっかけになったと思います。ますます建築って面白いなって感じることができました。でも正直今は意匠設計が恋しいです(笑) 
 私のこの研究は、両親の支えのおかげで、修士でも研究させていただけることになりました。あと2年間、楽しく研究して、Temp Tens.を完成させようと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。