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記憶空間の再構成

松山征帆
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
環境計画・保存コース
指導教員
津村 泰範
卒業年度
2022年度

こんな展示をしました。

今回の研究対象地は、私が幼少期に住んでいた静岡県の山奥、千頭にある宿舎です。
8枚のパネルには、私の記憶の中の宿舎空間を再現しました。

一体、私は何を考えてこんな研究をしたのか。以下にまとめます。


私には兄弟が6人居る。今では全員が実家を出て、それぞれの家に帰る。
転勤が多く、家を転々としてきた私は、家族みんなが帰るあの家に帰りたいと思いました。

母と手を繋いで歩いた並木道、背中を押してもらわないと揺れないブランコ、よく遊んだテニスコート、じっとりと肌に張り付く湿った空気、鬱蒼として風で音を立てる木、青い空、急ぐ雲。

一度として同じ時間は流れない。

そんな記憶空間を時間を止めて保存することはできないのか。と言うのがこの研究の始まり。

 

そもそも記憶空間って何?
私がここで言う「記憶空間」とは、その時間一点における「時間」「空間」「環境」の条件の重なりを言います。

時間と空間は比較的想像はし易いでしょうか。その時の自分の置かれた状況や周りの環境、関係性を「環境」としました。

いつもそうだとは限りませんが、日記を書く時を想像してみてください。自分が1日を振り返る時、何時にどこで何をしたか思い出しませんか?

日記に書かれたままの全く同じ1日を、その瞬間をもう一度過ごすことは出来ません。
元々、私達は「時間」「空間」「環境」の3つの条件が重なったものごとを記銘しますが、時間を経るにつれて記憶は3つの重なりからズレて行きます。

この研究では、出来るだけ3つの重なりに近づきたいと思い、研究を進めていきました。

じゃあ、記銘した時点の鮮明な記憶にどうやって近づくのか。

記憶のプロセスとして、「記銘」「保持」「想起」の3段階がある。
私達は、何らかの刺激を受けて無意識的にこれを繰り返している。
想起する時には、何かがきっかけになる。それは、言葉や景色、匂い、気持ちなど。感覚的にも感情的にも思い出すかもしれない。
きっかけがあることによって、3段階のループが生まれる。
そのループが多くなれば、記憶は当時に近い鮮明なものになるのではないかと私は考えました。

そうして、私は想起をするためのきっかけを集めを始めました。
現地を歩いたり、当時から使っていた家具を記録したり、記憶の情景を言語化してみたり。
宿舎の図面からもモデリングを行いました。

モデリング

平面図をかき

立体的に立ち上げ家具を配置していきました。

 

実は、最終成果として、モデリングデータのビジュアルを提出しようと考えていました。
しかし、なんか違うなと最後まで悩んでいました。

写真と絵画の間にある相違点、事実と想像。
図面から立ち上げたモデリングデータは事実なので、「記憶」にはならないのでは。

私のみた空気の色、匂いや音を表現するには、今の私には絵画しか思いつきませんでした。

言われました。その絵画も事実をもとに描いているから「記憶」ではないのではないか。

じゃあ逆に、事実というきっかけを無しに、思い出した空間は何なのか。それこそ想像なのではないのか。

とても考えさせられるテーマでした。
どれも間違ってはいないと思うから。
答えを出そうとするなら、明確な「記憶」の概念をまず出さなければいけませんでした。
「記憶」というその曖昧さ自体も、私は記憶の概念であると思いますが。

この記憶空間は、思い出す時点によって変わっていきます。
私は、決してこの作品が私の完璧な記憶空間だと断言できません。
今の私が事実というきっかけから思い出すことができた記憶空間なんです。

忘れたくない。忘れないように、残します。