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跡から感じる時間の流れとガラスの表現研究
畑華純
学科・領域
美術・工芸学科
コース
クラフトデザインコース
指導教員
中村 和宏
卒業年度
2022年度

「跡」から、過去から今への時間の流れを感じ、
暮らしの中の豊かさや何気なく過ごす時間の大切さを感じるため、ガラスの特質を生かした表現を研究する。

 〇「跡」
    1.足の辺。あしもと。
    2.あしあと。あしがた。足で踏んで残った形。
    3.過ぎて行った現象・事件・事物の発生・存在がうかがえるようなしるしの残っている所やもの。
     しるしをとどめる、そのもの。以前に物のあったところ。
    4.結果として残ったもの・状態。

 私は大学生になり大学まで一人歩いている時や地元に帰省した時に日常の何気ない景色を写真に残したくなるようになった。それは見慣れているはずのなんでもない駅や通学路、実家であったが、そこには他人や自然の力によってちょっとした変化が与えられたものが多かった。そのちょっとした変化は痕跡や形跡として私の目に留まり、何気なく毎日一人過ごす中で大切な時間の流れを改めて感じさせ、いつも通りと思っている日常をふと覗き込む意識を与えてくれた。

 これらは私が大学生になってから撮った写真である。(画像1・画像2・画像3)いずれも日常の中にあふれる場所であるがお尻の跡や虫の死骸、積層した雪といった跡がいつもの光景に変化を与え、私の目に留まるきっかけとなった。
 まず、画像1のお尻の跡の写真は、改札が開き、椅子に座って待っていた人達が一斉に立ち上がり去った後の場面である。よく見ると一つ一つのお尻の跡の形が違う。そこから考えられるその場にいた人達の様子を想像できることが面白いと感じた。例えば、跡の形の大小の違いからは体格の違いを感じ、凹みが深いと長い時間待って居たのだろうかと思った。また、1番面白い点は人と人の間に間隔がしっかり空いていることである。隣には座らず間隔を開けてどの人も座っている。他にも平日の帰宅ラッシュ時間だったため仕事終わりにヘトヘトで早く帰りたいと思いながら座っていたのだろうかと知らない他人の心境を考えた。画像2からはなぜそんな所で死んでいるのか。何日前からそこにいるのかと虫が過ごした時間を考え、画像3からは毎日毎日少しずつ積み重なりじわじわと盛り上がる雪の時間を感じた。

 このようにふと目に映った光景にある跡から、過去からの時間の流れを想起し、自分がいる今に至るまでの見ていないその場の過去の空間のストーリーを感じる。それは変わりないと思っていた日常の片隅にある面白さや豊かさ、不思議なことに改めて気付くきっかけとなり日常への愛おしさを感じた。そこから、何かの跡には人に想像させ、時間の流れに意識を向ける力があるのではないかと考える。

 私が写真のお尻の跡や虫、雪からそれぞれのストーリーを想像したことから人や生物・自然が作り出す跡には想像させる力やエネルギーがよりあるのではないかと考える。 しかし、人や生物・自然の跡は時が流れるにつれて移ろうものであり、いつかは無くなってしまう一時のものである。また、私は写真の光景から時間の流れを感じたが、人それぞれの日常があるように、時間の流れを実感し日々の時間の大切さを感じる跡も人それぞれだ。「今」がどうできているのかを「過去」からの時間の流れを通して感じることで時間の大切さや日常の愛おしさを意識できると考える。そのため、日常の跡を通して過去から今への時間の流れを感じるきっかけ作りをしたいと考えた。

 薄いガラスや色ガラスが流動した表情、表面に残ったガラスのしわなど、過去からの跡を残す繊細な形はどうやって今あるこの作品ができたのかと覗き込んでしまう。跡を残す作品をよく見る姿勢は、日常の些細な変化や何気ない面白さに目を向け、覗き込む姿勢につながるのではないかと考える。
 この作品を覗き込んだように、何気ない日常を覗き込み、跡から時間の流れを感じ人や自然とのつながりから日常の愛おしさや豊かさに気づくきっかけとなってほしい。

サイズ:W380×D570×H430㎜ 他
技法:キルンワーク
素材:蛍光灯リサイクルガラス ブルズアイガラス

畑 R4年度卒研 レジュメ