MENU

優柔不断な私のものづくり

-受け取り手として暮らしの中からものづくりを考える-
高橋美月
学科・領域
修士課程 美術・工芸領域
指導教員
藪内 公美
卒業年度
2023年度

 私のものづくりは難しい技術を使ったわけでも、新しいものを生み出すわけでもないから平凡に見られてしまうかもしれない。でもそれでいい。本研究を見てくれた人が、私の生活工芸品を身近に感じてくれ、使いたいと思ってくれたのであれば、私の研究は成功したのだと思う。
 自身の暮らしと制作を見直した時、自分の制作物はなんと呼ぶのだろうと思うことが増えた。工芸品には当てはまりはするが呼ぶには範囲が広すぎるし、美術工芸品だと美術館に展示している、触れてはいけないものを想像して敷居が高そうに感じられる。それだと私が目指しているものとはかけ離れてしまう。民藝と呼ぶには、その土地に根付いた技術や素材を使っておらず、運動を起こしたいわけでもない。そんな時に出会ったのが、三谷龍二の『「生活工芸」の時代』1だった。当時、初めて知ったその言葉になんとなく惹かれて本を購入し、その日を境に生活工芸に関連する本をいくつも読んだ。これかもしれない、私の中にストンと入ってきた。そこから自分の制作物は、名前を借りて生活工芸と呼んでいる。
 本研究の副論文は、私のものづくりと考えを記録し、優柔不断で自信を持てない私が自分を見失わないための大きなメモ帳のようなものでもある。ここでは暮らしで使いたい、手仕事のものづくりを集めてみた。私が展開する生活工芸品を見てくれた方へ、暮らしの小さな提案になればよいと思いながら。

 本研究は、作り手としての活動を主とする私が受け取り手の立場となり、日々の暮らしを見つめ直すことでものづくりについて考え、私の生活工芸品を展開することを研究目的としている。
 優柔不断な私は、曖昧で他人の考えに流されやすく、自分に自信がない。学部二、三年生頃までの私はもっと自信があり、迷いがなかった。いつからか、自分の考えや作品を周りと比べ、私って人を驚かせる表現ができないのだと、制作に対しての意欲がなくなることがあった。しかしそんな私でも生活工芸品だけは作り続けることができた。特段目立つような新しいものを作り出すわけではないが、平凡で日々暮らしに使うようなものを制作するのが私はとても好きだった。暮らしからヒントを得て、それを元にデザイン・制作し、作ったものは実際に使って改善点を見つける。そのサイクルが私に生活することの楽しさを教えてくれて、制作意欲を掻き立たせてくれた。そうして私は外に飛び出した。私が欲しいと思って作ったものは誰かの欲しいものに繋げることができるのか知りたかった。今度はその人たちのためにも作りたい、受け取り手と作り手の両方の気持ちを持って作ることができたなら、またひとつ前に進めるような気がした。

【私の生活工芸品たち】
 本研究で制作したものは、私が自身の暮らしの中で気づいた「こんなものがあったらいいな」と実際に使いたいものを中心に制作を行なった。タイトルは『日日-にちにち-』。日々の暮らしの小さな提案になりますようにと願いを込めている。

 「私の」なんて言ってしまうと、先人の考えを否定しているように思われてしまうかもしれないが、先人たちが残した言葉があるからこそ、今の私のものづくりが存在できている。うまく言葉にできない私が、書籍や文献を読んだことで手がかりを掴み、私のものづくりを見つけることができた。
 学部生の頃、学年が上がるにつれ、結局私は将来何がしたくて大学に来たのだろうと思い、やりたいことが見えている周りと比べていた。先のことに不安な気持ちを持つようになった時、家の中を見渡すと暮らしの中にあったらいいな、と思うものが目についた。暮らしの中をゆっくり見渡したことで、こういう生活道具を作りたい、そう思うようになったのだ。もともと器やカトラリーを見て集めたりすることが好きなので、技法を学び自分で作ることができるようになってから、あったらいいなというものの想像がさらに膨らんだ。そうしたら自分だけが満足して終わらず、生活道具を作ることを通じて人の暮らしに関わりたいと思うようになった。暮らしを見つめ、その生活の中からものが生まれてくる、暮らしの中から生み出されたものにはその形や肌合いに、作った人たちの生活を見つめる視点や感情が自然とあらわれてくるように感じる。暮らすこと作ること使うことを何度も往復していく中で私という人のものづくりが動き始めた。
 これまでに何度も優柔不断な自分に悩むことがあったが「ものづくりは願い」この想いだけは変わらずに持っている。誰かの暮らしに、そして小さな幸せに役立ってほしい、そう願いながら今日も私はものづくりをしている。そうして私の手元から旅立ったものたちが、今日も誰かの幸せに役立っているのかもしれない、そんなことを考えていたらやっぱり私はものづくりを続けたい。 

↓作品の詳細を載せています。暮らしで使っている様子の写真や、ものづくりへの思いや考えも載せておりますので、どうぞご覧ください。
日日-にちにち-.pdf

【参考文献】
1 三谷龍二『「生活工芸」の時代』新潮社