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あなたが”いえ”に立ち現れたなら

DNAとしての建築,建築としてのDNA
原陸
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
建築・インテリアコース
指導教員
与那嶺 仁志
卒業年度
2023年度


左の写真は40年前の祖父母の酒屋で、右は昨年の3月に閉店した現在の様子です。私はこの写真を見た時、その場にあったはずの人の動きや、モノの動き、確かに存在したはずの何かが失われていくような気がしました。

これは私の頭の中に浮かぶ祖父母の家のイメージです。常連のお爺さんが店から焼酎を取って、祖父の書斎で談笑する。この何気ない情景が、私にとってのこの家の象徴であり、守りたいと思う姿でもありました。そして、この祖父母の家の空間性を、住宅として後世に残したいと思ったのが制作のきっかけです。

「DNAとしての建築,建築としてのDNA」

住宅として受け継ぐことを考えた時に、建築をDNAとして扱うことを考えました。改修で住まいが受け継がれることはあっても、家族の世代間で、空間の要素すなわち建築のDNAを受け継ぐことはまずないと思います。祖先がどんな場所で生きて、どんな空間性の中で過ごしていたのか知る、そんな住宅の更新のあり方を考えていきました。

子供が生まれてDNAが交錯するように、住宅を更新する上で、古をそのまま踏襲することはなくて、必ず受け継ぎながらも変化していくと思います。そこで今回は、受け継ぎ残していくべきDNAを骨格、新たに組み込まれるもの外皮として、設計を進めていきました。

骨格のリサーチ

外皮のリサーチ


その後、抽出されたDNAをもとに、模型でスタディしていきました。
1/200の模型では、母と祖父母が住む家として、以下の条件を設定し、
ここで検討できる躯体スケールの骨格のDNAと、気候条件や住まい手からの要望による外皮のDNAを注入した結果

このようになりました。さらに1/100スケールでも、開口部の検討を含め同様のことを繰り返すと

以下のような形にDNAが注入されました。

その結果こんな家ができました。

またこの断面図で見てみると、以下のように骨格と外皮のDNAが配置されていることがわかります。

これは僕が一番好きな模型写真です。
酒屋のような開けた空間から閉じた空間までが、段差だったり、建具だったり、階段だったり、凹凸のある壁だったり、骨格と外皮のレイヤーが幾重にも重なることで、どっちに属しているか分からない、けど僕にとって祖父母にとって親密な空間になっていると感じました。

一階平面図,
この一階のダイニングは骨格と外皮のDNAのレイヤーが多く重なるところです。

仕上げを切り替えた床は、骨格の中にあった簀や小上がりで仕上げを変えることで、層を変えながらお互いの空間に染み入るように内部化しています。
また500mm上がった小上がりは骨格にもある要素ですが、地表面で暮らす温熱環境を考慮しながら、腰をかけるなどの身体動作によって空間を緩く分節しています。

三階平面図,三階は日照率の低い秋田だからこそ組み込まれた外皮のDNAが現れています。

母が日光の少ない冬に心を病んでしまったことがあり、
要望から「明るい空間」というのが条件でした。
左側の蔀戸は閉じた状態と開けた状態の時の反射率が異なります。
閉じた時には柔和な光が、開いた時には反射によって街の景色を映し出します。
これは祖父が冷蔵庫の反射越しに外の景色を眺めていた体験と重なります。

私は今回の設計手法を原家の一軒のみで行いましたが、
あくまでも原家は例題で、この設計手法を通して、個人として持っている建築のDNAを抽出する方法を確立できたのではないかと考えています。
これがもし、小商いではない他の住宅や、町にまで拡張していったとき、街がどう変わっていくのか、ということを今考えているところです。