MENU

煙楼

En Rou
三浦 航哉
学科・領域
プロダクトデザイン学科
コース
プロダクトデザインコース
指導教員
金澤 孝和
卒業年度
2020年度

一服する環境を創り出す
一服:(ーする) タバコ、茶をのんでしばらく休息すること。また、単にしばらく休息すること。
 

手が空いた時や家での時間を現代ではスマートフォンなどの電子機器を使って過ごしがちである。様々な情報に囲まれ不自由は何一つないように思えるが、心を休める時間や考え事をする時間はあまり取れていないのではないだろうか。
 煙楼はそんな現代的な生活からひと時だけ離れ、一服する時間を作り出すプロダクトである。
考えが行き詰まってしまった時や布団に入ってから眠るまでの時間、何も考えたくない時、部屋の電気を消し、煙楼の照明を点け、中のお香に火を灯す。
一点の灯りしかない空間からお香の香りと共に煙が昇っていく。お香が消えるまでの時間は考え事をするのも、ただぼんやりと過ごすのも自由。
 緩やかに昇り煙楼の中から溢れる煙と落ち着きを与えるお香の優しい香り、現代的な生活から解放された静かなひと時を。

 


一、手間や手順を楽しむ
 珈琲を豆から挽いて飲んでいる人は、それにかかる手間に嫌がりながら用意をしているのだろうか。
私は豆を挽いた方がインスタントより味が良いと理由の他にも、自分が手間をかけて豆を挽いて珈琲を用意しているという行為自体が自らの気持ちを高揚させ、味を美味しく感じさせる要因の一つになっているのではないかと惟た。
 以上のことから、手間や手順を多く踏むことによって
得ることのできる高揚感や充足感をデザインに組み込もうと考えた。

 

二、香りが作り出す環境
 一休宗純が広めた詩に『香十徳』という香りが持つ効果を記したものがあり、その中に

静中成友:一人でも心静かにいられる
塵裏偸閑:忙しくても心を和ませる
能覚睡眠:眠気を覚ます
という項がある。 

 お香にはその香りが与えるリラックス効果はもちろんのこと
集中力を高める効果など、落ち着いて静かに過ごす
環境に適した役割を持っている。

 

三、微弱な意識がもたらす集中
 自分が集中できると感じたのは、思案をする
傍らで五感のいずれかに対して緩やかに情報が
与えられている環境の時であった。
 散歩している時に視界に入ってくる鮮やかな朝日のグラデーション、煙草を燻らせた際の紫煙の重たく
流れるような動き、線香の灯火が下がって行くと共に香りが空間に広がっていく様子。
 全くの邪魔のない環境ではなく、集中の助けとなるような情報がある環境を作ろうと思った。

 全体的なデザインはお香に縁を持っている日本、中国などアジアのテイストが感じられるものにしたく、囲いの部分の格子状のデザインは日本の伝統工芸である組子の柄や、中国の格子窓を意識している。
 煙楼は煙の楼閣という意味を持っている。名前の通り建物をイメージし、窓に見立てた囲いから煙が通っていくような動きを目指した。
自由で曲線的な煙に対し、直線的な格子柄で対比させ動きを表現している。
 照明部分のシェードは骨組みと和紙を組み合わせたものになっており、光源が明るくなり過ぎるのを防ぐと共にプロダクトの雰囲気に合うように心がけている。
 土台とお香立ての部分はしっかりとした素材ながら、少し粗さがでるセメントで成型することによって機械的すぎず、人間的すぎることのない見た目に仕上げた。