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洪水時における早期水平避難・垂直避難を促すアプリケーションの開発と効果に関する研究

長岡方式の避難行動をモデルとして
大島椋介
学科・領域
修士課程 建築・環境デザイン領域
指導教員
福本 塁
卒業年度
2020年度

研究動機


私は2014年9月の関東・東北豪雨による洪水被害を地元住民として目の当たりにし、デザインの視点から洪水による被害を軽減できないか?という意識を持ち、「全戸配布されている洪水ハザードマップは情報量が多く、判読性が低いこと」に着目し、研究・制作に取り組んできた。

また、2019年に長岡市において信濃川本流が氾濫危険水位を超過する事態になり、早期水平避難の重要性を実感する機会を得た。

本研究はこれらの試行錯誤を経て、早期水平避難を学習し、事前に避難先を決定するための支援アプリケーションの開発に取り組んだ成果をまとめたものである。

 

研究背景


2019年に発生した令和元年東日本台風は死者111(関連死含む)、総額18,600億円が計上される大規模な被害が生じており、今後も同様の被害を引き起こす台風が発生する可能性が高い。

これを受けて長岡市では20206月に長岡市洪水ハザードマップが、「計画規模」の想定から「想定最大規模」の想定に改訂された。同時に長岡市の避難施設は「96,000人」分の受け入れ可能人数が不足している状況となっている。更に新型コロナウイルス感染症流行下における三密回避を踏まえると市の避難施設で受け入れ可能な人数はより少なくなることが想定される。

こうした「市の避難所で受け入れが困難な状況」に対応するために長岡市では長岡方式の避難行動として、早期水平避難、垂直避難の周知・行動促進を図る試みを始めている。

しかし、そもそも洪水ハザードマップは情報アクセスの敷居が高く、浸水深の読み取りだけでなく、浸水しないエリアにおける避難先の決定と取り組むべきことが多く煩雑であるため、住民にとって理解・行動が困難な状況にあると考えられる。

以上より、本研究の目的を「①洪水時における早期水平避難垂直避難を促すアプリケーションを開発すること」「②開発したアプリケーションの効果を明らかにすること」とした。

 

結果


・「浸水深」・「水平・垂直避難」の理解について全ての年代で効果が確認され、「水平・垂直避難を知らなかった人(108人)」の51.9%(56人)が本アプリ利用により水平・垂直避難を理解し、50%程度の実効果が確認された。一方で被害経験を自分事に関連付けるコンテンツや簡単にできる備えを周知する必要があることが考えられる。

・利用需要について現在地だけでなく住所検索機能の需要が高く、避難訓練における活用の可能性も比較的高いことが確認された。

・導入方法について操作性は肯定的であり公的機関からの配信が確認されたため、中越防災安全安全士を中心に公的機関と開発協力体制を整備したり、自主防災組織・町内会と連携し防災訓練を試行することで参入可能となるのではないかと考えられる。

 

結論


本研究では、洪水時における早期水平避難垂直避難を促すアプリケーションを開発し、その効果として、洪水時における水平・垂直避難の学習効果に寄与することが示された。

次に洪水時に市の避難所を圧迫せず住民一人ひとりが早期の避難先を設定することができる可能性が示され、防災まちづくりを実現する上で本研究の成果はその一助となると考えられる。