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再逢一処

祈りや願いの形 彫刻表現による動物たちの極楽浄土の制作
矢川実侑
学科・領域
美術・工芸学科
コース
美術表現コース
指導教員
小林 花子
卒業年度
2023年度

 

 私は日頃から神社仏閣に興味があり、各地の神社やお寺に足を運んだりしていた。3年次から仏像や仏具などの修復を手伝う機会を経て、仏像の制作方法を倣い、祈りや願いのための彫刻を自分なりに制作したいと思うようになった。

 本研究では「亡くなった動物たちが、今も健やかで幸せに暮らしていてほしい」という願いをもとに、人間のそばで生きてくれた動物たちのための仏と極楽浄土を制作。大切な命と時間をともに過ごした人々が、作品を通してその命と“この世”で再会できる空間を作った。

 

 

 

 

 動物たちにとっての幸せな状態とはなにかを考え、一番心が安らいでいて幸せそうな表情をしているのは安心できる人の側で眠っている瞬間ではないかと思った。動物たちが安心できる存在として作品の中心に仏を据える。動物たちを優しく包み、力強く守ってくれる存在であってほしいという思いから、守護獣であり、太陽の力を宿すとされる獅子と、常に自分の側にいてくれる存在である愛犬の2つをモチーフとして仏の姿を制作した。

 

 

 

 

 

 釈迦の姿の32の特徴を数え上げた『三十二相八十種好』を参考に仏の姿を作り上げ、右手のひらを上に向けることで与願印を表した。また、極楽浄土の動物たちを隈なく見守れるように首を長くし、仏像の曼網相に代わって獅子の手を大きくするなど、動物ならではの形状を加えた。

 仏と動物たちは樟を寄木し彫刻した。一本の丸太から角材に製材し、一つ一つ鉋をかけ表面を平らにして接着した。僅かな場所の違いで木目の向きが違ったり、木の水分が染み出してきたり、大きな木を加工していく過程で、この木が生きていることを感じた。また、刃を入れる度に木目の模様が変化し、動物たちが生きて動いているような感覚を持った。彫刻という姿で再び実体を持った動物たちとこの世で再会するという主題にあたって、木を素材に選ぶことで、その生命感が動物たちに温もりを持たせてくれたと思う。

 

 

 

 

 

 仏の乗る雲は、浄土信仰における来迎図を参考にし、仏と亡くなった魂が降りてくる様子を表現した。試作として毛足の短い毛糸で土台となる麻布の表面を埋め、そこに毛足を長くした毛糸を所々に施したところ、毛糸が地面に生える植物のようにも見えたため、雲と兼ねて極楽浄土の大地を表現した。

 

 

 

サイズ:W1200×D1300×H1650mm 他
素材:樟、ガラス、水干絵具、毛糸、羊毛綿、布、檜