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感熱紙を用いた記憶を風化させていく作品の制作
小針 莉緒奈
学科・領域
視覚デザイン学科
コース
表現デザインコース
指導教員
御法川 哲郎
卒業年度
2020年度

 ふとした瞬間、過去の嫌な記憶がフラッシュバックする。活動している、何か試行している時、瞬きのような時間の中で入り込んでくる記憶が嫌だった。大学4年生になり研究テーマについて悩んでいる時期、記憶がフラッシュバックする頻度が高くなっていた。そんな中、机の上に広げていた目に入った。購入したものを確認するために広げていただけだったがなんとなくレシートの紙について調べてみようと思ったのだ。これが作品「白」に繋がるきっかけとなった。
 調べていくと感熱紙は不思議な紙だという事がわかってきた。表面の薬品が熱に反応し印字されること。アルコールや水に弱く、柑橘系の果汁で描くと普通よりも早く炙り出されることなどだ。そのような実験をしていくうちに感熱紙がじんわりと熱に反応して紙に焼き付いていく様や所々朧げに描写されているのがまるで記憶のようだなと思った。同時に記憶を風化させるという作品を作れないか、とも。記憶を巡らせ、どのような作品にするか試行し、作品を作る。長い時間をかけてゆっくりと。過去の記憶と長期間、向き合っていくことで自身の記憶を風化させる試みを考え、感熱紙に焼きつく(脳裏に焼きつく)×水やアルコールに弱い(禊)。このような意味合いを持たせた作品が誕生した。
 人はSNSや日記、人と会話することでその人の持つ嫌な記憶と向き合い、その人なりに整理し、吐き出し、記憶を薄れさせていると私は考えている。私も私なりの表現で過去の苦い記憶と向き合い、整理し、吐き出した、記憶にも現実にも残らない作品を作りたいと思い、制作した。