MENU

萱岡家住宅リノベーション計画

―築57年の住宅の継承―
萱岡志保
学科・領域
建築・環境デザイン学科
コース
環境計画・保存コース
指導教員
津村 泰範
卒業年度
2020年度

私がこの研究を行おうと思った理由は、大好きな祖母の家を残していきたいと思ったからだ。
何も知らない人が見れば、ただの古い家にしか見えないだろう。しかし、私達家族にとってはたくさんの思い出が残る大切な家で、現在に至るまで57年間にわたり4世代が暮らしてきた。

研究は次のように進める

・予備調査
建物の概要や設計図書の有無及び建物使用履歴の確認、診断に必要な情報や資料の収集を行い診断計画の立案を行う。

・現地調査
直接現地に赴き建物の現況を調査するもので、目視による劣化調査や図面照合、敷地内及び周辺の状況の調査を行う。

・耐震診断
予備調査及び現地調査の結果を踏まえて、建物が保有する耐震性能を評価し、現行の耐震基準と比較して判定を行う。既存建物の大地震時における耐震安全性を評価し、補強の要否を判定する。

・補強(リノベーション)プラン作成
耐震診断の結果を踏まえ、建物全体のバランスを見ながら耐力壁が足りないところに壁を増やし、筋交い・補強金物を取り付け現行の耐震基準に適合させる。

・リノベーションプラン見積
作成した補強(リノベーション)プランをもとに、工事を行った場合に必要な材料を数え、単価と手間代を乗じて費用を試算する。

・建て替え見積
同じ市内で実際に新築工事を行った住宅の見積をもとに、現代の平均的な広さの住宅を新築した場合と、現在の建物と同程度の広さの住宅を新築した場合の費用を求める。

 

現状図面

 

現在の問題点

・建物の断熱性が低い
・冬季の浴室の温度が低下し、ヒートショックの可能性がある
・建具にゆがみがあり、隙間が生じている
・階段の勾配が急である
・敷居などの段差があり、転倒事故が発生する可能性がある
・扉やふすまが多く、手すりが設置できない
・汲み取り式トイレであり、匂いや害虫が発生する
・コンセントが少ないためタコ足配線になっており、電気火災が発生する可能性がある

 

耐震診断

今回は「一般診断法」という
、建物の壁や基礎を傷つけない耐震診断を行った。
1.2階ともにx方向の耐力壁の不足が顕著に見られたほか、図の上部構造評点から耐力壁の増設を考慮する必要があることが分かった。

 

写真

 

リノベーション図面

 

リノベーション設計

 
リノベーションプランの設計では、現在の建物の雰囲気を残しつつ建物の性能を向上させること、高齢者も心地よく過ごすことの出来るバリアフリー住宅にするという点に注意した。
 現在の建物は和室と台所の間に廊下・階段があり、空間が分断されているため、階段の位置を変更し、廊下の一部をダイニングキッチンとして取り込むことで和室とダイニングキッチンの間の襖を開放すると1つの広いLDKとなるようにした。縁側を残し、第2の玄関とすることで、半屋外の交流空間とした。浴室・トイレなどの水回りは木部が劣化している可能性があるため、構造躯体のみを残して解体し、新たな間取りへと変更する。その際、浴室・洗面脱衣室・トイレを広くすることで、介護を行う場合に備え、将来の車椅子利用を想定し、部屋の間仕切りは引き戸とした。また、降雪や降雨時は部屋干しとなるため、2階にランドリールームを設けた。

 

リノベーション見積

 設計プランから見積を行ったところ、リノベーション工事の見積は消費税を含め約1536万円となった。
 大野市の木造住宅耐震改修促進事業において耐震補強工事にかかる費用の8割かつ上限120万円が補助金として設定されている。耐震補強工事にかかる費用はおよそ660万円であり、この金額の8割は約528万円となるため、
120万円の補助金が交付されるものとする。
 リノベーション工事にかかる費用は、見積から補助推定金額を引いた金額となるため、約1416万円であることが分かる。
建て替え見積

 建て替えの見積は実際に大野市内で新築工事をした延床面積120㎡の住宅の見積を使用する。新築住宅の平均延床面積が128.6㎡であるため、平均的な広さの120㎡に建て替えた場合の見積と現在と同規模の190㎡に建て替えた場合の見積の2つを求めた。
 参考にした新築住宅の見積は、建築本体工事が約1877万円、別途付帯設備工事が250万円、地盤改良工事が約73万円である。また、福井県の建物解体費用の相場は2.6万円/坪であるため、現在の建物の取り壊しに58坪×2.6万円=150.8万円がかかり、120㎡に建て替えた場合の費用は税込みで約2570万円となった。
 現在と同規模に建て替えた場合の見積は建築本体工事・地盤改良工事の費用を1.6倍にして求めた。建築本体工事は約3002万円、付帯設備工事は250万円、地盤改良工事は約117万円となり、現在の建物の取り壊し費用150.8万円を含め、税込みで約3857万円となった。

 

結論

 
リノベーション見積と、建て替え見積を比較すると、規模を縮小して建て替える場合で約1155万円、現在と同規模に建て替えた場合では約2442万円もの差額があることが分かる。
 この結果より、建物の劣化の度合いにもよるが既存建築ストックを改修し利用することは産業廃棄物の排出量が減少するなど環境に良いだけではなく、新たな建築物に建て替える場合と比較して金銭的にも安価であることが分かった。

 

感想

 この研究はより実務に近い形で行った。住宅のリノベーションを行う上で、住人の要望を取り入れつつ設計をすることはとても難しく、リノベーションプランは何度も改訂を加えた
 研究結果を見て、リノベーションという選択肢があることを一人でも多くの方に知っていただきたい。